とある日のとある手紙
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「ただいま。」

「おねえちゃん、おかえり。」

 

 弟が出迎えてくれた。普段だと私が弟妹を向かえにいき、一緒に帰ってくるのだけど、お母さんが休みの日はこうやって出迎えてくれる。

 

「ただいま。よう君、今日も楽しかった。」

「うん、たのしかったよ。」

「そっか、あとで教えてね。」

 

弟と話をしているとお母さんがリビングから出てきた。

 

「おかえり。はい、ラブレター。」

「えっ。」

 

 お母さんがそう言って私に封筒を渡す。真っ白な封筒に私の名前が書かれている。誰の字かな。何処かで見たような気がするんだけどな。裏返してみるがそこには差出人の名前はない。

 

「だれからもらったの、わたしにはないの。」

 

 お母さんの後ろから妹の声がする。

 

「ばかだな。おにいちゃんからにきまってんだろう。」

 

 私の後ろにいた弟はそういいながら、お母さんの横をすり抜けてリビングに入っていく。彼から?でも毎日会うし、電話もするのに何で手紙を。そんな風に思って考えているとお母さんが一言付け足す。

 

「真一君じゃないよ。それによう君とりょうちゃんのもあるんだから。」

「ほんとう、ぼくにもあるの。みる。」

「わたしもみる。だれからきたの。」

 

 お母さんに二人がじゃれついている。

 私だけじゃなくて弟妹にもってことは、お父さんからなのかな。

 

「お父さんから?」

「それは読んでのお楽しみ。そうだ、あとで渡したいものがあるから、それ読んだら降りてきてね。」

「うん、わかった。」

 

階段をあがり自分の部屋に入り、封を開け手紙を読みはじめる。

 

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拝啓 梅雨の候 ますますご健勝の事と存じ上げます。そちらは梅雨で気温の変化が激しいと思いますが、体調には気をつけて過ごしてください。

 

 電話という方法も考えましたけど、今いる国はかなりそちらと時差があるので諦めました。なので手紙です。書き出しが堅苦しいのは仕事柄なので許してください。

 

 さて、先日は素敵な贈り物をありがとう。さっそく日替わりで着けています。選んでくれたものは、どれもすごく評判がいいです。父の日のプレゼントですと言うと、羨ましがられました。

 けど、こんなにたくさんのネクタイ、お小遣いは大丈夫ですか。もし足らなければいつでも言ってください。必要なだけ用意します。もちろんお母さんには内緒で。

 

 この間の戻った時に紹介してくれた彼とはうまくいってますか。実はこれが聞きたくて手紙を書いたと言っても過言ではないです。ものすごく気になっています。

 

 彼氏がいても不思議じゃない年頃なのに、失念していました。よくよく考えれば、手作りチョコを貰った時に彼氏の存在に気づくべきでした。僕だけの為にと考えてしまった当たり親バカなんでしょうね。

 

 それにしても紹介されたその日に、婚約の話をされるとは思いもしませんでした。おかげでどうやって仕事先に戻ったのか記憶にありません。余裕があるように振る舞ってましたけど実はいっぱいいっぱいでした。

 

 貴女が選んだ人なら間違いはない。そうわかっていても心配です。何せ高校生ぐらいの男の子はとにかく本能が強く出る時期です。いえ、自分の経験からではなく、一般論としてです。大丈夫だとは思いますけど、くれぐれも節度ある付き合いをしてください。お母さんからも言われているかもしれませんが、自分を大事にしてください。

 

 ただ、彼なら大丈夫な気もしています。とても短い時間での印象ですが、芯が強く、優しそうでした。貴女にとって彼は甘えられる存在なんでしょうね。すこし嫉妬してしまいそうです。

 

 最後になりましたが、いつもお母さんを支えてくれていてありがとう。もっと遊び盛りの年頃なのに、弟妹の母親代わりありがとう。僕は父親として、どんな風に貴女の目にうつっているんでしょうか。家に戻っても中々話す機会もなく、父親らしい事もできてません。

 

 こんな僕をお父さんと呼んでくれてありがとう。初めて呼ばれたときは一瞬、頭が真っ白になりました。その時は一回だけだったので自分の聞き間違いともおもいました。五月に帰ってきた時、改めて呼ばれて認めてくれたんだと嬉しく思いました。

 

 またしばらく、戻れませんけど元気にすごしてください。

 

六月吉日

 

敬具

榊 祐介 拝

榊 亜由美様

 

追伸

紙の手紙もいいですけど、もう一つの手紙なら時間も気にせず出来るので、一ヶ月早いですが誕生日プレゼントとして用意してもらいました。読み終わったらお母さんから受け取ってください。

 

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 読み終えると頬に涙が流れていた。返事を書こう。ありがとうをしっかりと伝えたい。

涙を拭いて下に降りていくとお母さんが何も言わずに携帯電話を渡してくれた。

 

 その携帯には一通のメールと一件のアドレスが登録されていた。メールに一言こう書いてあった。

 

『私の大切な娘 亜由美へ 父より 』

 

説明
六月のメインイベントも無事に終わり、いつもと代わり映えのしない日常をすごす彼女のもとにやってきた一通の手紙。そこには何が書かれていたのでしょうか。「とある」シリース第12弾
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コメント
宮本彬さん♪二人の馴れ初めや、その辺りはどこかで書いてみようかと思ってますのでお楽しみに。(華詩)
確かに。あのお母さんを落とすなんて普通できないです。(彬 )
宮本彬さん♪コメントありがとうございます。そうですね、ちょっぴり格好良すぎましたかね。でも彼はそんな人です。何せあの人を口説き落とし幸せにしている人ですから。(華詩)
お父さん格好良過ぎます。またようやく読めましたので書かせていただきます。それにしてもお父さん格好いいですね。(彬 )
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小説 とある 手紙 父の日 

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