恋姫OROCHI(仮) 参章・壱ノ拾 〜畳の上の戦〜
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「「「……………………」」」

「「「……………………」」」

 

 

 

…重い。

息つく音すら出せない、ピンと張り詰めた空気が場を支配していた。

俺は心の中で大きく溜息をついた。

 

 

 

 

 

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――――――

――――

――

 

 

 

孫呉と長尾で白装束を拝した後、戦後処理や面通しの意味合いを兼ねて、春日山城で双方の対談と相成ったのだが…

 

まず、長尾は城の主として、孫呉を客人として招きたいという申し出に、孫呉が難色を示した。

あくまで同じ戦を戦った同志なので、賓客の礼など無用とのことだ。

当初、美空は反発するも、俺が必死の説得で何とかこれを呑んでもらった。

 

次に、席次の問題が発生。

面通しと共に、事情説明をしてしまいたいがため、名目上の上座に座る人間が必要となった。

誰か一人だとこれまた問題なので、双方から一人ずつ代表者を出すという話になった。

長尾側は、主君の良人である俺が務める事になり、孫呉側で事情に通じている人間が明命姉ちゃんしかいないので、自動的に確定なのだが…

 

「雪蓮さまや蓮華さまを差し置いて、上座になんか座れませんよ〜!!」

 

と、これを固辞。

調整の結果、孫呉の将ではない翠姉ちゃんを据える事で落着したが…

 

「いや…別にやれって言うならやってもいいけど、未だにあたし、良く事情分かってないぜ?」

 

という体たらく。

翠姉ちゃん、かなり初期からいるんだけどな…

そんなこんながあり、会談に至るまで悠に三日かかってしまったのだ。

 

 

 

 

 

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とまぁ、色々と複雑な事情が重なり、ここ、春日山城の上段の間はピリピリ険悪ムード。

 

並びは、上段は使用せず、上座に俺と右隣に翠姉ちゃん。

俺側、左手に美空、秋子さん、柘榴、松葉、そして詩乃、小波、湖衣と並び、美空と秋子さんの後ろにはそれぞれ空と愛菜が座っている。

翠姉ちゃん側は、右手に雪蓮姉ちゃん、冥琳姉ちゃん、祭姉さん、思春姉ちゃん、穏姉ちゃん、明命姉ちゃんと並び、雪蓮姉ちゃんの後ろに蓮華姉ちゃんとシャオ姉ちゃんが控えている。

 

全員が全員、向かいの人物から目を逸らさず、ジッと見つめ合っている。

特に、美空と雪蓮姉ちゃんは溢れる殺気を隠そうともしていない。

まるで戦場のようだ。

 

どうしたものかと隣を見やるが、翠姉ちゃんは落ち着きなく上体を揺らし、ソワソワとしている。

この空気に居たたまれないのか、それともトイレに行きたいのか判断がつかないが、役に立たないのは間違いなかった。

 

 

その空気を破ったのは美空だった。

 

「まずは、ようこそ我が城へ。当主、長尾景虎の名において、越後一同、孫呉の諸氏を歓迎するわ」

「歓迎痛み入る。本来の当主・孫仲謀に代わり、この当主代行・孫伯符が御礼申し上げる」

 

美空と雪蓮姉ちゃんが言葉を交わす。

言葉遣いは丁寧だが、険のある口調だ。

ほとんど見たことのない、二人の一国の主としてのやりとりに息をするのも忘れる。

 

「我が娘、並びに直江与兵衛尉の娘を手厚く保護して頂いた事も、改めて篤く御礼申し上げる」

「こちらも、我が孫家の末女、尚香を賓客の礼をもって遇して頂いた事に、感謝の意を表する」

 

お互いに心から感謝しているおかげか、多少顔つきは柔らかくなったが、テレビで見ていた首脳同士の他人行儀な感じを受ける。

実際に矛を交えたわけではないのだから、ここまでギスギスすることもないのだけど…

 

「もぅ……雪蓮お姉ちゃん。面白がってないで、そろそろ話を進めたら?」

「美空おねえさまも、あまり剣丞さまを困らせない方が…」

 

そんな声が上がったのは、両当主の後ろからだった。

それを聞いた雪蓮姉ちゃんと美空は同時に、ニヤリと嗤った。

 

「そうね。長尾景虎さん、だったかしら?なかなか楽しめたわ。あなた、最高よ」

「それはどうも。あなたも、さすがは江東の小覇王と呼ばれるだけあるわね」

 

ピクンピクンと、お互いの頬が少し引きつる。

まだジャブの応酬は続いているようだ。

傍で見てる人からすると、超絶級のボディーブローなんだが…

 

「三国同盟からこっち、ゾクゾクしたやりとりなんてなくなっちゃったからね。やっぱ必要よねー、こういう場って」

「それは同感ね。私も武田と同盟関係になってから、どうも気が弛んじゃって仕方がなかったのよねー」

「「あははははっ!!」」

 

本質的に共感できる部分と、同属嫌悪のようなものが綯い交ぜになって、もうぐっちゃぐちゃの状態になってる…

 

「はぁ……雪蓮」

「御大将も……」

「あはは〜、お互い苦労しますね〜」

 

軍師格の三人が、表現は違えど呆れムード。

 

「…剣丞、もう姉様は無視して、話を進めてちょうだい」

 

頭が痛いとばかりに眉を顰め、こめかみを押さえる蓮華姉ちゃん。

 

「あ、うん。えっと……まずはちゃんと自己紹介といきたいんだけど……」

 

ホホホホ、と奇妙な笑いへ変化を遂げた当主二人を見やる。

 

「放って置きましょう。私の姉、孫伯符に、長尾家当主・長尾景虎殿の名は、みなもう覚えたことでしょう」

 

蓮華の問いかけに一座、苦笑・溜息・首肯と反応は様々だが、みな同意のようだ。

 

「それでは、私からいくわね。我が名は孫仲謀…」

 

 

…………

……

 

 

こうして蓮華姉ちゃんから始まり、孫呉・長尾・その他という順で進み、最後に俺の自己紹介となった。

 

「え〜…新田剣丞です。孫呉の皆さんも、一部知っているかと思いますけど、一刀伯父さんの甥です」

「「「…………」」」

 

少しもざわめかない。

まぁ、直接会った事ないのが雪蓮姉ちゃんと冥琳姉さんという、胆の座った人たちだし、蓮華姉ちゃんたちからも一通りの事情を話してくれたんだろう。

ここまで反応が無かったのは初めてだから、ちょっと寂しいけど…

 

「この場は、長尾家当主・美空の夫として、僭越ですが仕切りを務めさせて頂きます。よろしくお願いします」

 

と頭を下げる。

 

「ふ〜ん、あなたが一刀の甥の剣丞ねぇ……」

 

美空に向いていた雪蓮姉ちゃんの視線がこちらに向く。

 

「…うん。一刀に似て可愛い顔してるじゃない?」

「はぁ……どうも…」

 

興味からくる熱視線と、殺気にも似た冷たい視線を同時に体感し、何とも居たたまれなくなる。

 

「一刀の血縁ってことは、やっぱり夜も強いのかしら?どう?私で試してみる気はない、剣丞?」

「いぇっ!?」

 

そう言いながら舌なめずりする雪蓮姉ちゃんに、背骨が飛び出すんじゃないかってくらい仰天する。その時

ぶちぃっ

と、どこかで何かが切れる音が…

 

「ちょーーっとアンタっ!!私の目の前で私の夫に何してくれてんのよっ!!」

 

ダンッ!と畳を踏み鳴らして美空が立ち上がる。

と同時に、フワ〜と美空の周りが光りだす。

 

「ちょおっ!!」

 

なに護法五神呼び出そうとしちゃってるの、この娘はっ!

 

「御大将!ダメです!!こんな所でそんなもの呼び出しては!」

 

隣に座っていた秋子さんが慌てて美空を止めに入る。

さすがにこの時ばかりは秋子さんも必死なのか、後ろから美空を羽交い絞めにする。

 

「離しなさいっ…秋子!ここまで虚仮にされて、黙ってなんかいられないわっ!!」

「美空!止めろ!」

 

秋子さんだけじゃ止め切れないと判断し、俺も止めに入る。

 

「だって剣丞っ…」

「美空」

「〜〜っ!分かったわよ!!」

 

美空の目を真っ直ぐに見て少しきつめに呼びかけると、むりくりに力を押しこめて、ドスンと座る美空。

 

「ふぅ〜…しぇれっ……孫策さんも、あまり美空をからかわないでやって下さい」

「ゴメンなさいね〜?華琳や愛紗とか以上に面白かったからね〜♪あぁそれと、私も含めて、呉の娘は真名で呼んじゃって良いわよ?剣丞も、そちら美空さんたちもね」

「は、はぁ…ありがとうございます」

 

どこまでも自由奔放な雪蓮姉ちゃんに溜息をつきつつ、話が進まないので、それは捨て置いておく。

 

「えぇ〜それでは、今のこの世界に何が起こっているのか、分かっている限りのことを説明させて頂きます。人によっては重なる話や、こちらから質問することもあるかと思いますが、その辺はご容赦とご協力お願いします」

 

と前置きをし、長い長い説明に入った。

 

 

 

 

 

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………………

…………

……

 

 

 

途中、中座も挟みつつ数刻。

長い説明は西の空が赤らむまで続いた。

 

「ふむ、なるほどな。おおよそのところは理解した。おかげで見えなかったものも少しは見えてきた」

「そうですね。まだ状況は判然としませんけど…」

「戦力が分断された中、各個撃破や私たちのように相互不信による同士討ち…敵もやりたい放題だったでしょうね〜」

 

話を最後までちゃんと聞いてくれて、理解したのは軍師・家老の皆さまだけ。

蓮華姉ちゃんは耳を傾けてはくれていたけど、その眉根は寄っていて、難しい顔。

雪蓮姉ちゃんや美空は、端からまともに話を聞く気はないようだし、シャオ姉ちゃんはいつの間にかいなくなっていた。

 

「そこで、孫呉の皆さん、そして長尾勢にも俺達の拠点となっている洛陽に来てもらいたいんだけど…」

「新田よ。それは件の、時を超えて、と言うことか?」

 

冥琳姉さんが手を挙げて質問してくる。

 

「そうなりますね」

「私たちが過去の洛陽に赴くとなると、同じ時間軸に私たちが二人いる、と言う事態になりはしないのか?それとも、私たちが洛陽に現れた瞬間に建業に居た私たちは消えてしまうのか?」

「え……と?」

 

何となく難しい感じの話。

言わんとしてる事は分かるけど、俺にはサッパリ分からない。

 

「あ〜……管輅に直接説明してもらおうかな?管輅、いる?」

「ここに……」

 

誰もいなかったはずの後ろから声がする。

一座の人たちが一斉にギョッという目をしたから、また突然現れたんだろう。

…何故か小波だけは悔しそうな顔をしてるんだけど。

 

「皆さんに紹介します。この娘は管輅。時を越える力を持っていて、俺達の大事な協力者です」

「管輅と申します。皆さん、よろしくお願い致します」

 

管輅が優雅に頭を下げる。

 

「管輅、冥琳姉さんの疑問に答えられる?」

「はい。周瑜さまの疑問は至極ご尤も。私の方から説明させて頂きます」

 

 

これまた難しい話が始まり、最早ついていけてるのは冥琳姉ちゃんだけ。

禅問答のような二人の会話が延々と続く中…

 

 

「あーー…もうさー?そんな小難しい理屈とかどうでもいいから、とりあえずイっちゃいましょうよ」

 

雪蓮姉ちゃんが痺れを切らしたように声をあげた。

 

「……っしかしな、雪蓮」

 

その言葉にハッと我に代えるような顔になる冥琳姉ちゃん。

管輅との話に夢中になっていたようだ。

 

「国を空けるとなれば、それなりの……」

「その辺は、雷火あたりに任せちゃえばいいじゃん」

「はぁ……じゃあ後は私と穏でやっておくから、他の者は先に行っておいてくれ。私達は後から合流する。管輅、出来るか?」

「はい、問題ありません」

 

トントン拍子で話が進んでいく。

 

「それじゃあ、孫呉は冥琳姉さんと穏姉ちゃん以外が来てくれるとして…美空、長尾はどうする?」

 

この不安定な情勢で春日山城を空けるというのは、長尾家的にはあまり良いことではないだろう。

 

「どうするも何も、全員で行くわよ」

「え、いいの?」

 

また城が乗っ取られる可能性だってあるのに…

 

「空と愛菜さえ連れて行けば怖くないわよ。人質を取らなきゃ何も出来ない連中なんだから。そうだ、いっそのこと、あのバカ姉を城代にしてみるのも面白いかもね」

 

状況を楽しんでいるようだ。悪い方向で。

 

「駄〜目〜で〜す!はぁ……城代には政景様と綾様に頼むのが妥当でしょうね…」

「それに、あの女狐が行くなら、私も絶対についていかなくちゃっ…」

 

頭を悩ませる秋子さんを尻目に、美空は雪蓮姉ちゃんを睨みつけながら、小声でポツリと言い放つ。

う〜ん…目の仇にしてるなぁ。

やっぱり『虎』関係の一族とは相性が悪いんだろうか?

それとも単なる同属嫌悪なのか?

聞いたら間違いなく怒られるので絶対に聞かないけど。

 

「あの〜剣丞さん。引継ぎもありますし、もう数日お時間頂いてもよろしいでしょうか?」

 

秋子さんがおずおずと尋ねてくる。

そりゃ、普通の国持ちはほいほいと付いては来られないよね、普通。

 

「それじゃあ、洛陽に行ける人は三日後にここに集合と言うことで」

 

 

 

こうして、無事に助け出した孫呉と長尾家の大半が、俺達の陣営に加わることになった。

 

 

 

説明
どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、62本目です。

間が空いて申し訳ありません。
今回で、本当に孫呉・長尾編完結です。
どうしても書きたかった、最後のひと悶着(?)です。


それと見直してて、都にいるはずの亞莎がいることに気付きました。
過去作は順次直して参ります。
大変申し訳ありませんでしたm(_ _)m


なお、実際の地形や距離とは異なった表現があります。
その辺、お含み置き頂ければと思いますm(_ _)m
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コメント
いたさん>一応、ご留意頂ければと思い、毎回付け加えています。毎回コメント、本当にありがとうございます^^(DTK)
距離とかは原作においても、違っているところがあるそうですから仕方ないかと。 これからも次回も、楽しみにしています。(いた)
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