真 恋姫無双 もう一人の大剣 1話
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「断る」

 

「・・断るにはそれなりの理由があるのでしょうね」

 

「ああ。勿論だ」

 

「炎!何故だ!私達と戦おうではないか!?」

 

「炎・・・今回ばかりは私も味方できん」

 

「おい、今更お前らに言われて、はいそうですねって納得する程の決断だと思ったのか?」

 

1人の男と対するは、曹操、夏侯惇、夏侯淵。

 

男とは幼少の頃からの付き合いだ。

 

男の名は曹螢、真名は炎、曹操が幼児の頃から兄として面倒をみている。曹操と共に過ごしている客将だ。

 

「元々俺は華琳、お前に仕えるためにここにいたわけじゃあない。お前の祖父、曹騰様からお前が1人で決められる年になるまで面倒をみるよう仰せつかっただけだ。今がその時、以降お前がどうしようと俺の知ったことじゃない」

 

「私が・・貴方が必要だと言っているのがわからない?たとえ客将とはいえ、付き合いは長いはずよ」

 

自分の思い通りにならないからか、華琳は少し目に力を入れる。

 

「それだ、それなんだよ華琳」

 

呆れ気味にそう言う炎。

 

愛着さえある長く使い込んだ椅子にもたれかけ、今にも壊れると思わせる音が数回鳴る。

 

「俺は春蘭同様武力馬鹿だからな、難しいことはわからん。誰につけば有利だの、誰に仕えれば能力を発揮できるだの、そんな事は俺にとってはどうでもいいんだよ。ただこれだけは言える」

 

炎は一度深く腰掛け上半身だけ前に出る。

 

「俺はな、俺が一緒にいたいと思った奴としか共に戦わない」

 

炎は強い。

 

武力でいうと、大陸で自分に勝てるものはいないという自信すらある。

 

春蘭と同じく、物事を深く考えることも出来ないことを自覚している。

 

自分本位な考えではあるが、そこに悪はない。

 

「俺はお前と一緒にいたくない。だから仕える気もない」

 

炎、華琳共に鋭い眼光でお互いをにらみ合う。

 

幾ばくかの間の後、炎の椅子が壊れ静寂を破った。

 

「うおっ!・・・いった?」

 

尻もちをついたのだろう、両手で尻をさすっている。

 

木の破片が刺さらなかっただけでも不幸中の幸い。

 

「・・・もういいわ」

 

三人に背を向け、華琳は部屋の扉へと歩く。

 

「何処へでも行きなさい。二度と・・帰って来ないで」

 

扉が開き、閉まる。

 

「か、華琳様!」

 

春蘭が華琳を追うために、走り出す。

 

扉を勢いよく開け、その反動で閉まり、扉にヒビが入る。

 

炎は壊れた椅子の木片を拾い始める。

 

「手伝おう」

 

「悪いな」

 

残った秋蘭と炎は木片を拾う。

 

「俺の言った事は全て本心だ」

 

「ああ、わかってるさ」

 

「仕えたい奴の条件だって昔から決めてたんだ」

 

「ああ」

 

「・・・曹騰様への恩もある。勿論お前達への恩だって・・身寄りのない俺に多くの温もりや思い出をくれた」

 

「お前ほどの奴に感謝されるとは感激だな」

 

「茶化すなよ。そりゃ昔は華琳に仕えたいと思ってたさ!だが「炎」」

 

少し興奮し、高く、大きくなった炎の声を秋蘭が短く遮る。

 

「それは言わなくてもいいことだ。違うか?」

 

お互いにそれはわかってる。

 

長く一緒にいた仲だ。

 

言う必要がない、言っても悪化はしても良くなることはない。

 

「それにお前が言い訳じみたことを言うな。とめたくなるだろう。重い決心をしたと言ったのはお前だ。今更言ったことを撤回するような発言をするな」

 

「うっ、わるい」

 

「私だってお前に並々ならぬ恩があるのだ。忘れるな。お前がどこにいようと、私はお前を大事に思ってる。私だけではない。姉者も、華琳様もそう仰るはずだ」

 

「バカ、その張本人がさっきまで俺に怒りの矛先を向けてたんだぜ。それ以前に俺は武力だけしかない脳筋野郎だよ。あの華琳が俺を大事に思ってるかね」

 

「フッ、鈍いなお前は」

 

「おい、バカにしてんのか?」

 

「先程お前は私にバカだと言ったな。そっくり返させてもらおう。脳筋ならば、その頂点は姉者以外に他はいないだろう。比べれば、お前の脳筋など大したことはない。華琳様のことに限っていえば、何も期待していない者に対してあそこまでお怒りになられるか?今なおも多忙な華琳様にたかが1人の兵に割かれる時間があると思うか?そこをよく考えろ」

 

「・・・・すまん」

 

「謝るな」

 

「なあ・・・・秋蘭」

 

「なんだ?」

 

「華琳・・・・ついでに春蘭も・・任せた」

 

普段、感情の起伏は激しい炎だが、何故かそれを表情に出すのを苦手としている。

 

本人曰く、どう動かせばどのような顔になるのかというところの理解が浅い。

 

つまりは、炎は自分の意思で顔を動かすのが苦手である。

 

その炎が不器用ながらも笑う表情を作り出した。

 

端から見ても、笑っているようにも、泣く、怒る、そのようにも見える。

 

だが秋蘭にはその表情が何であるかすぐに理解ができた。

 

「あ、ああ・・・任された」

 

「お、おい。泣くなよ」

 

今度は無意識に焦っている表情。

 

少し間をおいて、乱暴に手を秋蘭の頭の上に置く。

 

「はは、お前はいつまでも泣き虫だな、秋蘭」

 

炎は優しく笑いながら、秋蘭の頭を撫で続けた。

 

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「よし!準備完了!」

 

幼子の頃から与えられたであろう部屋に少し寂しさを覚えつつも、扉を開ける。

 

炎は右方向から殺気が感じる。

 

何者かと思い、注視していると、一つの声が。

 

「えーーーーん!」

 

「おいおい、春蘭マジかよ」

 

「こら!逃げるな!」

 

「そんなもん振り回しといて逃げないわけにはいかないだろう。丸腰だぞ、俺は」

 

逃げ回る炎、追いかける春蘭。

 

その距離は変わらない。

 

春蘭が速度を落とし、止まる。

 

炎もそれに合わせ、止まる。

 

「くっ・・はあ、はぁ・・・・体力バカめ」

 

「重いだろう、その大剣は。あと、秋蘭が言ってたぞ、大陸どこを探してもお前ほどのバカはいないと。」

 

「む、秋蘭め・・・」

 

息切れする春蘭に対し、炎は乱さない。

 

「・・・・・・」

 

春蘭が足を床にすらせて、前に出る。

 

炎は春蘭が進んだ分だけ後ろへ下がる。

 

数回このやりとりを繰り返す。

 

春蘭はこのいつまでも変わらない距離が途轍もなく遠く、炎と自分との人間としての距離感だと思った。

 

変わらない。

 

「炎・・・これはお前の剣だろう」

 

「いや、それは曹騰様が成長した華琳のために用意なさった物だ。それまで俺が預かっていただけにすぎん。まあ、あの華琳がそんな物持てるはずはないけどな」

 

「華琳様への侮辱も程々にしないとお前とはいえ許さんぞ」

 

「はいはい。ん?おっとと!」

 

手に持つ大剣を炎に放り投げる。

 

「客将とはいえお前は華琳様に仕えた将なのだ。受け取るに値するに決まってるだろう。曹騰様だってお前なら良いと仰るはずだ」

 

「おいおい、俺には受け取る資格はないと言ってるんだ」

 

「うるさいぞ!さっさと持っていけ!」

 

「はあ?。わかったわかった。もってくよ」

 

毎日握っていた大剣。

 

1日離れただけだったが、随分久しぶり握った感覚。

 

いつもより重く感じる。

 

「じゃあな」

 

炎は春蘭に背を向け、

 

「炎、お前はいつ帰ってくる?」

 

「・・・・・・ん?」

 

再び春蘭と向き合う。

 

「お前はここにいつ帰ってくるのだ?」

 

頭がいたい。

 

炎は片手で目を覆う。

 

「春蘭・・・あのな前に話した俺の話を忘れたか?」

 

「今の華琳様に仕える気はないのだろう」

 

「お、おー。よく分かってるな」

 

「だから、お前が次にここに再び帰った時、お前は華琳様に仕えるのだ」

 

「はあ?」

 

「あの華琳様だぞ。今よりももっともっと美しくなられて、お前が心の底から仕えたいと言い出すに違いない。だからいつでも帰ってきていいのだぞ」

 

「あ、開いた口が塞がらん」

 

「?ちゃんと閉じてるではないか」

 

「おい春蘭!俺はそういうつもりでお前らに言ったわけじゃ・・・う??」

 

つまり、春蘭はこう言いたい。

 

炎は今の華琳に仕える気はない。

 

炎が再び帰る時には、華琳はより主人にふさわしい人物になるので、いつでも帰ってこい。

 

春蘭はいつでも華琳バカ。

 

「・・・っはは、あっはっはっはっは!お前はホントバカだ。華琳バカ。だがそんなお前も大好きだ、春蘭」

 

炎はそう言葉にしながら、人差し指を額に当て。

 

「だが俺はそこまで華琳バカにはなれない」

 

春蘭の額から指を離し、背を向けて歩いていく。

 

「華琳を支えてやれ」

 

春蘭は返さない。

 

お互いそれは分かってる。

 

春蘭の視界から炎が消えて彼女はこう言った。

 

「私達が華琳様を変えるんだ。また炎と共に過ごすために」

 

春蘭はこの日、いつまでも感じていた炎との距離をほんの少しだけ潰せた気がした。

 

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民達の反応は必ずしも良いものではなかった。

 

際立った批判があったわけではないが、炎に対する視線や表情がそれを物語っていた。

 

民からすれば炎のやる事は離反と同じだ。

 

逆に春蘭や秋蘭の反応がおかしいだけだろうと思えてくる。

 

「見送りはお前だけか。恵まれてるな」

 

その人物と炎は揃って城門まで歩く。

 

「皆忙しい。離反者に構ってる暇はない」

 

「手痛い一言だな。お前はいいのか?曹孟徳の幹部が朝っぱらから離反者と逢い引きか?」

 

「今日回ってくるものは少ない書類仕事でな。時間に余裕がある」

 

「・・・・」

 

嘘だ。

 

そう言いかけてやめた。

 

そんな事を見抜かれる事を予測した上で秋蘭はきた。

 

「みえみえの嘘つきやがって」

 

秋蘭は徹夜で仕事を終わらせた。

 

炎は顔を見ればわかる。

 

秋蘭に聞こえないよう呟き、顔を指差す。

 

「お前はよく無表情、地味と言われるが俺はそうは思わん」

 

顔を指した指を円を描くように回す。

 

「お前の顔の至る部位がお前の今の感情を十分に表現している。それがどんなに小さくても俺はそれを見逃す事はない。覚えておけ。俺はもう華琳の配下じゃないが、いつでもお前らの味方だ・・・・・・俺がお前らを正しいと判断した時に限り!」

 

最後に頼りない言葉を残し城門まで1人で走り出す。

 

「じゃあな!」

 

炎が見えなくなってから秋蘭が呟く。

 

「私が華琳様を、姉者を支えなければ。また4人一緒に過ごすために」

 

華琳配下の二大幹部はそれぞれの決意を固めた。

 

説明
チェンジです。
一話一話を短くして出していこうと思います。
前作の投稿終了の報告直後で身勝手ですがよろしくお願いします。
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コメント
劉邦柾棟さん<コメントありがとございます。(チェンジ)
おおwwww! 新作キタ━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━( ゚∀゚ )━━!!!!(劉邦柾棟)
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