英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク 改訂版
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〜紺碧の塔・屋上〜

 

「あら……私の式神を倒すなんて。”剣聖”の指導の賜物(たまもの)かしら?」

自分の式神達が倒された事にルシオラは感心した様子でエステル達を見つめた。

「はあはあ……」

「姉さん……どう!?」

「ふふ……頑張ったご褒美に教えてあげる。私が”結社”に入ったのは……自分の闇を見極めたかったからよ。」

シェラザードの問いかけに満足げに頷いたルシオラは自身が”結社”に入った理由を話し始めた。

 

「え……」

「8年前……座長が崖から転落して亡くなった事は覚えているわね?」

「あ、あたり前じゃない。あの事故がきっかけであたしたちのハーヴェイ一座は……」

「そう……一座は解散してバラバラになってしまった。でも、どうして座長が一人であんな人気(ひとけ)のない場所にいたのかとうとう誰にも分からなかった……。一体、どうしてだと思う?」

「ど、どうしてって……」

ルシオラの唐突な問いかけにシェラザードは戸惑いながら答えたが

「答えは簡単……。あの時、座長は一人きりで崖の近くにいたのではないの。私が座長の側にいて……そしてあの人を突き落したのよ。」

「………………………………。……なに……何を言ってるの姉さん?」

ルシオラの口から語られた驚愕の事実に呆然とし、我に返った後放心状態で訊ねた。

 

「ふふ、だから言ったでしょう。ハーヴェイ座長は私がこの手で殺したの。」

「あはは……冗談キツイよ。だってあの時、姉さんは……」

ルシオラの説明を聞いたシェラザードは渇いた声で笑いながら否定しようとした。

「自分の手で座長を殺してから何食わぬ顔でみんなの元に戻る。そしてその場で鈴を鳴らして座長の叫び声の幻聴を聞かせる。―――私の幻術を使えば造作もないトリックだったわ。」

「やめて……やめてよ!姉さんは座長を殺したなんて……そんな事あるわけないじゃない!本当の親子みたいに……それ以上に仲が良かったのに!」

しかし自分の想いを否定するかのように残酷な真実を語ったルシオラにシェラザードは悲鳴を上げるように必死に否定をしようとした。

「だからこそ赦(ゆる)せなかった。あの人が私たちの元から去って行こうとしたことが……」

「え……」

そしてルシオラの言葉にシェラザードが驚いたその時、今までの塔と同じように妖しい光を放っていたゴスペルは光を放つをやめた!

 

「また………!」

「戻るのか………!?」

ゴスペルの光が消え、装置の起動が終わると今までの塔のように装置は完全に止まり、周りの風景は元に戻った。

「ふふ……どうやら時間切れのようね。」

「ね、ねえ……。ここにあった結界って何のために張られていたの?”結社”は一体、何をしようとしているわけ?」

「残念だけど、私たちも詳しい事は教わっていないの。教授に指示された通りのことをやっていただけだから。ただ、隠された塔の内部を見て何となく見当はついたのだけど。」

「え……」

ルシオラの答えを聞いたエステルが驚いたその時、ルシオラは鈴を鳴らした。するとルシオラの姿が薄らぎ始めた。

「待って姉さん!まだ全部答えてもらってない!どうして姉さんが座長を殺さなくちゃならなかったの!?……あんなに優しかった……みんなの親代わりだった人を……!」

「ふふ……悪いけど今回はここまでよ。今度会えた時に続きは全部教えてあげるわ。それまで良い子にしてなさい。」

血相を変えて尋ねるシェラザードの問いかけにルシオラは答えず、その場から姿を完全に消した。

 

「あ、あの、シェラ姉……」

「シェラさん……」

「……大丈夫、心配しないで。あたしは姉さんの真実に一歩、近づくことができた。今は……それだけで充分よ。」

「シェラザード……」

(……”真実”、か……)

(ヨシュア……レーヴェ……)

驚愕の事実をしっても落ち着いた様子でいるシェラザードをアガットは静かな表情で見つめ、フレンは重々しい様子を纏い、ステラは辛そうな様子でヨシュアを見つめていた。

「”四輪の塔”もこれで3つ……。”アルセイユ”に戻って最後の塔に向かいましょう。」

そしてエステル達はアルセイユに戻り、最後の塔である琥珀の塔に向かった。

 

〜リベール上空〜

 

エステル達が”四輪の塔”の事件を解決している間、王国軍警備艇が”結社”の飛行艇に牽制射撃を行いながら、追いかけていた。

「ふん……往生際の悪い。多少、速力で勝ろうとも包囲網から逃れられるものか。そのまま追い詰めて拿捕(だほ)せよ!」

「イエス・サー!」

攻撃艇の中で指示をしたモルガン将軍の号令に兵士達は頷いた後、結社の飛行艇を執拗に追った。

 

〜同時刻・王都グランセル〜

 

同じ頃、王都周辺の人形兵器を掃討し、王都に戻って来た王国兵達をシード中佐と副官が見守っていた。

「やれやれ、何とか夕刻までに人形どもを掃討できましたねぇ。ようやく一息つけそうです。」

「そうだな……兵達も疲れているだろう。後の警備は後詰めに任せて今日はゆっくり休ませてやれ。」

「了解ッ!」

シード中佐の指示に副官は敬礼をして頷いた。

 

〜同時刻・レイストン要塞・指令室〜

 

さらにその頃指令室でカシウスは王国軍士官から報告を聞いていた。

「―――以上をもちまして各方面からの報告は終わりです。”アルセイユ”の遊撃士も含め、予想以上に順調と言っていいかと。」

「ふむ……そうか。」

「しかし、”結社”と言っても所詮は犯罪者の集まりですな。王国軍の敵ではなさそうです。」

「油断するな。例の”方舟”が残っている。警備艇には引き続き王国各地の哨戒に当たらせろ。なお、緊急指令は全部隊に徹底させるように。」

「了解しました!」

報告を終え、新たな指示を受け取った士官が部屋を出て行くとカシウスは一息ついた。

 

「緊急指令……異変時における行動指令書か。ルーク達に頼む予定の件も含めて杞憂に終わってくれればいいのだが……。………………………………」

その場で考え込んでいたカシウスはやがて立ち上がり、部屋に備え付けられてある通信機を手に取って、誰かに通信を始めた。

「―――ご苦労。カシウス・ブライトだ。突然ですまないが彼をここに呼んでくれ。」

カシウスがある人物と会話をしているその頃、アルセイユは”琥珀の塔”の上空に到着した。

 

〜アルセイユ・ブリッジ〜

 

「”琥珀の塔”上空に到着した。斥候部隊からの続報もようやく入ってきたところだ。……塔から現れた襲撃者は巨大な鎌を持つ少女だったそうだ。」

「そっか……予想はしてたけど。」

「……ユウナちゃん………」

「うふふ、ようやくレンの出番ね。」

最後の塔に待ち構えている”執行者”がユウナである事を悟ったエステルとティータが複雑そうな表情をしている中レンは口元に笑みを浮かべていた。

「”殲滅天使”ユウナ……僕が結社にいた頃はまだ”執行者”候補だったけど……まさか、あの”パテル=マテル”を動かせるようになっていたとはね。」

「ヨシュア……あの巨大人形を知っているの?」

「結社のラボで開発されていた戦略級の巨大人形兵器だった。制御が困難で、開発計画は凍結されたはずだったけれど……」

「それをあの嬢ちゃんは楽々使いこなしてたんか……お姉さんの方は幼い頃に”八葉一刀流”を皆伝しているねんから末恐ろしいチビッコ姉妹やで。」

「”元”よ、”元”。―――ま、”レンと同じ”ユウナだったらそのくらいの事もできて当然でしょうね。」

「レン………」

疲れた表情で溜息を吐いたケビンに指摘した後静かな表情で呟いたレンをルークは複雑そうな表情で見つめた。

 

「………………」

「大丈夫、ティータ。そんな顔しないでってば。絶対にあの子の目を覚まさせてあげるから!」

「お姉ちゃん…………」

「「……………」」

エステルがティータを元気づけている中ヨシュアとレンは複雑そうな表情で黙り込んでいた。

「えっと……ちょっと楽観的すぎるかな?」

「……いや。ひょっとして君なら……あの子の心に届くかもしれない。一緒に呼びかけてみよう。」

「……うん!」

「フウ……レンは正直無駄だと思うけどね。」

ヨシュアの言葉に頷いたエステルを見たレンは呆れた表情で溜息を吐いた。

 

「レンちゃん……」

「レン……ユウナにとってあんたは双子の姉―――”家族”なのに、その家族のあんたが真っ先に諦めているような事を言うんじゃないわよ。」

レンの言葉を聞いたティータは複雑そうな表情をし、エステルは真剣な表情で指摘した。

「それ以前に”レンとユウナが家族”という前提が間違っているわよ。―――忘れたのかしら?王都での事件でレンとユウナが再会した時、ユウナはレンを”偽物の家族”扱いした事を。」

「……………」

レンの指摘にエステルは複雑そうな表情で黙り込み

「フゥ………………ユウナの”元双子の姉”として忠告しておくわ。多分だけどユウナにとっての”結社”はレンにとっての”ブライト家”だから、レンとユウナの事を何も知らないエステルが言ってもユウナは心変わりしないどころか、むしろ逆上すると思うわ。それでもいいならレンは止めないわ。」

エステルの様子を見たレンは小さな溜息を吐いた後真剣な表情で忠告した。

 

「え……ユウナにとっての”結社”がレンにとっての”ブライト家”ってどういう事……?」

「…………………」

レンの忠告の意味がわからなかったエステルが不思議そうな表情をしている中既に察しがついていたヨシュアは複雑そうな表情で黙り込んでいた。

「うふふ、それはユウナを説得する人自身が気づかないといけない事だから頑張ってね、お・ね・え・ちゃ・ん♪」

「ぐっ……こんな時くらいは真面目に答えなさいよね……」

そしてからかいの表情のレンに見つめられたエステルは唸った後ジト目になって呟いた。

 

その後エステルとヨシュアは自ら同行を申し出たレンに加えてティータ、イオン、アリエッタ、バダックを同行メンバーに選び、今までの塔と同じように異空間になった琥珀の塔の探索をし、そして屋上に到達した。

 

 

 

説明
第76話
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