飛将†夢想.4
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『業』

 

業(業に“おおざと”)とは、

後趙、前燕、北斉などの各王朝の都となった中国の歴史的地名である。

 

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併州・上党城

 

 

「……という事なんだけど、何か質問ある人?」

 

 

軍議室で周りの顔を見ながら尋ねる丁原。

その質問に、

 

 

「ウチは無し」

 

 

「私もです」

 

 

「………」

 

 

張遼、張燕、呂布は特に聞き直す部分も無く頷いた。

丁原はそれを確認すると、

 

 

「なら、早苗は上党城の守備をお願い。城の一万の兵を預けるから、宜しく頼むわね。霞、奉先は私と一緒に業へ攻めるわよ」

 

 

と、拳を前に出してニッと笑う。

呂布たちもそれに応えて拳を前に出した。

 

 

 

遂に、黄巾賊討伐の大規模戦闘が始まろうとしていた。

 

丁原軍は上党の隣接都市である業に向けて進軍。

業に近い黄河にある白馬港に待機していた曹操・袁紹も兵を引き連れ、幽州の薊の太守・劉焉も養っていた義勇兵を業に向かわせる。

 

対する業城の守備に就く黄巾賊の将・程遠志は直ぐに増援を要請。

その顔には焦りがあった。

 

業には首領である張角とその妹たちが居たのである。

 

討伐軍はその事を知らず進軍するのであった。

 

 

冀州・業城

 

 

「程遠志様っ!!官軍が、官軍の連中が!!」

 

 

黄巾賊の兵士が慌てて状況を伝えようとする中、

程遠志と呼ばれた無精髭が目立つ男は何も言わず、

ゆっくりと城壁から外を見る。

 

程遠志の目に映ったのは、城に向かってくる大軍勢であった。

官軍の先頭を進むのは金髪の少女、二人。

 

 

「おーほっほっほ!!袁紹隊の皆さぁん、突撃ですわよ!!」

 

 

「…春蘭、秋蘭。あの馬鹿が黄巾賊をおびき出し始めたら、それを各個撃破。そのまま城に流れ込みなさい」

 

 

討伐軍の将、袁紹と曹操は部隊に指示を飛ばすと直ぐに行動に移させる。

 

それを目の当たりにした程遠志は剣を抜き、

 

 

「迎え撃つぞ、援軍到着まで耐えるのだ!!」

 

 

黄巾賊の兵士たちを鼓舞して、

剣を官軍に向けた。

 

そこに、

遅れて丁原の部隊が到着する。

 

 

「あちゃー…もう始まってるやないか」

 

 

「こうしてられないわね……全軍っ…」

 

 

丁原は先に戦闘を開始した袁紹と曹操の部隊と合流すべく、部隊に指示を出そうとする。

だが、丁原は言葉を思わず止めてしまう。

 

 

「ちょっ、呂布ちん!?」

 

 

丁原自身は勿論、丁原の部隊全員が自分の目を疑った。

駿馬に跨がる呂布が戟を片手に袁紹・曹操の両部隊の横を駆け抜けていたのだ。

 

袁紹と曹操も思わず、

その光景に口を開けてしまう。

 

呂布は微笑しながら業城の門に向かって馬の速度を上げると、

突然手綱を握ったまま馬から飛び降りた。

 

 

ズガガガガガガガガッ!!!

 

 

音を立てながら大地を滑る呂布は、

次に手綱をも放し、

馬によって付いた速度に乗りながら門に向かって滑る。

 

そして、

その勢いを殺さず、

門に向かって全力で戟を振るった。

 

 

ズドォーーーーン!!!

 

 

轟音を立て、

勢いよく開く門。

 

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「…一度やってみたかったのだが、案外簡単に開けれるのだな」

 

 

開門された門の前で、

大きく曲がった戟を手に笑う呂布。

そんな呂布を敵味方全員が黙って見ていた為、

一瞬時が止まったかのような現象が起きてしまう。

 

だが、我に返った討伐軍の歓声が上がり、

その現象も直ぐに終わった。

 

 

「何者だ、あれは!?」

 

 

「…に、人間ですの?」

 

 

曹操は直ぐに近くの部下に向かって呂布の存在を探らせ、

袁紹は今だに口を開けたまま呂布に向かって指をさす。

 

呂布の一件で敵味方共に混乱する戦場の中、

 

 

「呂布ちんに負けんな!!」

 

 

「奉先に続くわよ!!」

 

 

唯一、統制の取れていた丁原の部隊が、

開いた門に向かって馬を走らせた。

 

一方、城壁から呂布の行動の一部始終を見ていた程遠志も言葉を失っていた。

それもそのはず。

人が成せぬ事を呂布はやってのけたのだ。

 

攻城兵器無しでの城門開門。

人の手で。

戟一本で。

 

 

「…ッ、門に向かえ!!敵の侵入を許すな!!」

 

 

暫くして我に戻った程遠志は直ぐに命令を出し、

傍らにいた兵士たちは慌てて階段を降りていく。

 

だが一人だけ、

呂布の姿を見ようとしているのか、

城壁から身を乗り出し動こうとしなかった。

その者に対して気付いた程遠志が怒鳴る。

 

 

「何儀!!…早く行け!!」

 

 

「………へ?……あ、は、はいっ!!」

 

 

程遠志の怒声に、

漸く気付いて慌てた様子で門に向かう少女。

 

 

(……格好良いんですけど、あの人ぉ!!)

 

 

何儀は口許を緩ませながら、

城内を走った。

 

一方、呂布が打ち破った門では、

既に戦闘が始まろうとしていた。

 

 

「………」

 

 

百人程の黄巾賊に囲まれる呂布。

だが、その表情には焦りは見られず、

寧ろ口許に笑みがこぼれる。

 

呂布は無言で曲がった戟をある程度真っ直ぐに戻すと、

左手を前に出し、くいっ、くいっと挑発した。

 

それと同時に飛び掛かる数百人の黄巾賊。

呂布は戟を大きく振りかぶった。

 

 

 

討伐軍・曹操隊

 

 

「…呂布?」

 

 

配下の夏侯惇、夏侯淵から報告を受ける曹操。

 

 

「はい、上党の丁原に仕えている者のようです」

 

 

「…今は、その程度の情報しか」

 

 

曹操は夏侯惇たちの報告に、

自分の顎に手をやって考えた。

 

 

(今は味方とはいえ、後々のことを考えると…)

 

 

突如現れた豪傑に、曹操は考える。

“自分の野望の障害になるのではないか”と。

 

 

「華琳様…?」

 

 

そんな悩む曹操に、心配した夏侯惇が歩み寄る。

だが、曹操はバッと突然顔を上げると、

それに驚いた夏侯惇など気にせず、

 

 

「今は成すべき事するだけ…この戦いで私の名を天下に知らしめる!!春蘭、私の為にも早急に城を落としてきなさい!!」

 

 

「は、はっ!!」

 

 

命令を下して、

夏侯惇を出撃させるのだった。

 

 

場所は戻って、城門。

 

 

「呂布ちん!!助太刀に……って」

 

 

「…やってるわねぇ」

 

 

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遅れて呂布のもとに駆け付けた張遼と丁原であったが、

二人は呂布を見ると思わず武器を下ろしてしまう。

 

黄巾賊を蹴散らし続ける呂布。

黄巾賊は四散しながら建物に飛ばされていき、

城門近辺は地獄と化する。

 

丁原たちが手助けしなくても大丈夫だろう、

と武器を下ろしてしまうのも仕方ない状況であったのだ。

 

その丁原たちの反対側に、

鬼神の如く暴れる呂布の姿を見つめる何儀の姿があった。

 

 

「ふわぁぁあん…格好良ぃ…」

 

 

何儀は建物に寄り掛かりながら、

呂布が一人倒すたびにフルフルと悶える。

 

 

「…こ、これが一目惚れというものなの…?」

 

 

何儀は頬を紅く染めてハッと気付いたように呟く。

そうしている内に何儀の首筋に戟の先が当てられた。

 

 

「…敵を前にして、考えごとか?」

 

 

呂布は何儀を殺気を込めて睨む。

自身を囲み襲い掛かってきた黄巾賊を呂布は一掃したのである。

そして、今度は何儀の命まで絶とうとしていた。

 

そう、何儀の言葉を聞くまで。

 

 

「はいっ、貴方のことで頭がいっぱいいっぱいでした!!」

 

 

「…は?」

 

 

予想外の発言に思わず眉を細め聞き直してしまう呂布。

だが、何儀は呂布の言葉を無視して話を続ける。

 

 

「決めましたっ、私、貴方に一生ついていきます!!もぉ、そりゃ何処までも!!」

 

 

「…い、いや、待」

 

 

「私、何儀と言います。真名は五月雨。貴方が望めば、この身体いつでも捧げますので」

 

 

「…おい」

 

 

「さっ、行きましょう。二人の愛の旅路へ!!!」

 

 

そう言って、

何儀が呂布の手を掴んで遠い所を指差した時であった。

 

 

「ちょい待ちぃ!!」

 

 

「はうァッ!!?」

 

 

暴走する何儀に放たれた張遼の鉄拳制裁。

それを見ながら苦笑する丁原。

張遼は地面に沈む何儀に向かって口を開く。

 

 

「アンタの熱意は良ぉぉっく分かった。けどなぁ、そういうんは戦いが終わってからやなぁ…」

 

 

「…聞いていないぞ」

 

 

「へ?……あー、やってもうた」

 

 

呂布の言葉に、

漸く何儀が気絶している事に気が付く張遼。

だが、張遼は別に反省するわけでもなく、

 

 

「ま、こっちの方が楽そうやし良いか」

 

 

しゃがんで何儀の身体を突く始末。

だが、その動作も走って寄ってきた伝令兵の言葉により止まってしまう。

 

 

「報告!!敵援軍到着!!野戦に出た敵部隊合わせて約二万!!」

 

 

「来たわね…霞、奉先!!」

 

 

伝令を聞き表情を変えた丁原は、

バッと顔を呂布たちに向けた。

 

 

「損害が一番少ないのはウチらやからなぁ。てか、誰も傷付いとらん」

 

 

「…城攻めは嫌いでな。丁度、野戦で暴れたかったところだ」

 

 

張遼は呂布を横目で見ながら、

呂布は戟を脇に挟んで拳を鳴らす。

二人の言葉を聞いた丁原はニッと笑い、

 

 

「城内の突撃は味方に任せて、私たちは後退。陣形を立て直した後、敵増援に攻撃するわよ」

 

 

指示を出すなり、

再び現れ始めた黄巾賊を倒しながら城を出たのだった。

 

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その頃、

 

 

「文ちゃーん!!」

 

 

「どうした斗詩?」

 

 

巨大な剣を握り締めながら黄巾賊を見る少女はそれから視線を外さず、

こちらに向かってくる斗詩と呼んだ少女に答える。

 

斗詩と呼ばれた少女…顔良はそのまま少女の隣に立つと自身も手に持つ巨大な鎚を構えた。

 

 

「麗羽様、良いように曹操さんに利用されてるよぉ…」

 

 

「やっぱりなぁ。どうせ、本人も気付かず突撃させてんだろう?はぁ…」

 

 

大剣を構える少女…文醜は主君である袁紹の指揮する姿を想像すると、

溜息を漏らす。

 

 

「と、とりあえず、士気的には勝っているから少しでも被害を少なくする為に頑張ろう?」

 

 

文醜に同情した顔良は苦笑しながら、文醜を鼓舞する。

それに対して文醜は、

 

 

「…だな。よっしゃッ、行くぜ!!」

 

 

気を取り直して武器を再び強く握り締めると、

顔良と共に戦場を駆けるのだった。

 

 

 

一方、

 

 

「フフッ…流石、麗羽ね。考え無しに突っ込んで敵を引き付けてくれるなんて」

 

 

黄巾賊と野戦を展開する袁紹隊に、

遠くからそれを確認する曹操がほくそ笑む。

 

 

「もう暫くすれば、丁原隊と共に城に向かった姉者が城を占領するはずです…」

 

 

そんな曹操に夏侯淵が業城を指差しながら言う。

曹操はそれに頷きながら、

 

 

「春蘭のことだ、丁原よりも早く『曹』の旗を立てて…」

 

 

と言いかけるのだが、

城を見ていた夏侯淵の焦った言葉に遮られてしまう。

 

 

「か、華琳様っ…『丁』の旗が、丁原軍が業城から……!?」

 

 

夏侯淵の目に業城から撤退していく丁原軍が移る。

予想外の展開に夏侯淵は思わず唖然としてしまうが、

曹操はその光景に感心したかのように微笑を浮かべた。

 

 

「…城の開門で十分な名声を得た、か。なかなか切れる人間なのね、丁原という女は」

 

 

考えのつかない行動ばかりする丁原軍。

曹操はそれを知らず知らず意識し始めていた。

 

 

「曹操殿っ」

 

 

業城を出た丁原は、その曹操のいる部隊に近付く。

曹操は丁原を確認すると、

 

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

 

笑みを浮かべて、

丁原の話を聞こうと胸の前で腕を組む。

 

 

「私たちはこのまま敵増援と戦っている袁紹隊の援軍に向かうわ。そこで貴女の隊に城の占領を任せたい」

 

 

「あら、私に良い所をくれるのかしら?それは有り難いことね」

 

 

丁原の言葉に、曹操は自身の顎に手をやって笑う。

丁原は曹操のその反応に、

承諾を得れた、

と感じたのか丁原は掌と拳を合わせる。

 

 

「宜しく頼むわ。武運を」

 

 

「貴女の方こそ」

 

 

曹操も掌と拳を合わせて答えると、

丁原はニッと笑って馬を走らせた。

その後を騎馬隊が続く。

 

そして、

丁原隊が曹操の横を通り過ぎようとした時だった。

 

 

「「………」」

 

 

呂布と曹操。

二人の視線がほんの一瞬だけ合う。

 

後の因縁。

正確に言えば、

既に因縁づいている鬼神と乱世の奸雄の出会いであった。

 

 

丁原が曹操と話していた頃、

自分の隊の後方で待機していた袁紹の耳に伝令が伝わる。

 

 

「敵増援、到着!!その数、およそ二万!!」

 

 

袁紹はその報告に唖然としてしまう。

戦下手と自覚していない袁紹でも、

野戦を展開して損害がある自身の隊では戦局的にも危ないと判断できたのだろう。

 

 

「な、何ですって!?こうしてはいられませんわ、顔良さん!!文醜さん!!」

 

 

袁紹は後ろを振り返って、

手をバッと晒しながら部下の名前を呼ぶ。

 

だが、

 

 

「………が、顔良さん?文醜さぁーん?」

 

 

それに対する返事は一向に無く、

戦場には喚声だけが響いていた。

 

 

「もぉう!!何をしていますの、あの二人は!?」

 

 

ここで袁紹の戦下手が発揮された。

袁紹は顔良と文醜、

二将を出撃させていたことを完全に忘れていたのだ。

 

その時、

袁紹配下の二将はというと、

 

 

「…ぃっくし!!」

 

 

「文ちゃん?」

 

 

「あー…はは、麗羽様に呼ばれたかもねぇ」

 

 

鼻をすすりながら苦笑する文醜。

彼女の前には既に増援部隊の兵士が数十人立っていた。

 

幾つかの傷を負い、

黄巾賊に包囲される顔良、文醜。

 

 

「…ちょっと、ヤバイかもなぁ…」

 

 

文醜は得物である大剣を握り直しながら、

背後を任せている顔良をチラリと見る。

 

顔良も限界が迫っているのか、

息を切らしながら鎚を持ち直していた。

そして、文醜のさっきの言葉に返事を返す。

 

 

「うん、味方もいないし………っ!!?」

 

 

それは一瞬の出来事であった。

文醜同様、チラリと後ろを見る顔良。

そこに一瞬の隙が生じてしまったのだろう。

顔良に黄巾賊が飛び掛かる。

 

 

「っ!?斗詩っ!!」

 

 

振り返る動作を足さなくても顔良を助ける事が出来ない、

そう頭の中で理解していても身体が動いていた。

文醜は自分の背後を顧みず顔良に身体を向ける。

 

 

「………あ、あれ?」

 

 

だが、顔良は斬られず呆然と立っていた。

大地に崩れ落ちたのは黄巾賊であり、

その後ろには剣に着いた血を払う丁原の姿が。

 

 

「大丈夫?」

 

 

その丁原の言葉と同時に後ろから怒涛の如く現れる騎馬隊。

騎馬隊は呂布と張遼を先頭に黄巾賊を殲滅していく。

 

騎馬隊を目で追った顔良は、

ただただ立って呂布たちの奮闘を見つめた。

そこに文醜が顔良をゆっくりと抱きしめる。

 

 

「斗詩ぃ…良かったぁ…」

 

 

「…っ、文ちゃん。私は大丈夫だよ」

 

 

文醜に抱きしめられ漸く気付いた顔良は、苦笑しながら文醜を抱きしめ返す。

丁原はそれを見ると、

フフッと微笑して顔良たちに歩み寄った。

 

 

「お楽しみの所悪いんだけど…」

 

 

「…おおっ!!あ、ありがとうございましたっ、この御恩はどう返すべきか………えっとぉ」

 

 

丁原に突かれてハッと我に戻った文醜は、慌てて丁原に土下座するが、

丁原の名前が分からないのか途中で言葉が途切れてしまう。

それに対して丁原は苦笑しながら、

 

 

「丁原よ。救援が遅れて貴女たちを危険な目に合わせてしまったわね。申し訳ないわ…」

 

 

先ず自己紹介を済ますと、

次に詫びる為か深く頭を垂れた。

それを顔良と文醜は慌てて頭を上げさせる。

 

 

「か、顔を上げてください!!」

 

 

「そっちはぜーんぜん悪くないんッスよ!?何なら、救援に来るべきは一番近い曹操隊ですし…」

 

 

あたふたして必死に丁原に話す二人に、

丁原は漸く顔を上げた。

 

 

「ありがとう、そう言ってもらえると助かるわ。そのお礼に此処は私たちが引き受けるから、貴女たちは負傷者をまとめて一度後退して」

 

 

丁原は笑みを浮かべながら、

顔良たちに後退を促す。

彼女のその行為に、

 

 

「そこまで…」

 

 

「あぁ、麗羽様に貴女の爪の垢、いや爪丸々飲ませてやりたいですよ…」

 

 

顔良と文醜は涙を流しながら丁原に深く感謝する。それを見た丁原は、

 

 

(…相当、苦労してるわね)

 

 

と心の中で呟き、

苦笑するのであった。

 

 

 

その頃、

騎馬隊を率いて黄巾賊の増援に突撃する呂布たちは…

 

 

「おりゃぁぁっ!!」

 

 

気合いと共に得物を振り回し、

黄巾賊を薙ぎ倒す張遼。

 

 

「………」

 

 

無言のまま戟で黄巾賊を突き殺し、

もう片方の手で他の黄巾賊の顔を握り潰す呂布。

 

その光景はとても恐ろしく、

増援に来た黄巾賊の士気は下がり始めていた。

 

 

「お、やるやないか、呂布ちん。ウチも負けへんで!!」

 

 

更に黄巾賊に不幸が起きる。

呂布の気炎に触発され張遼の闘志が更に燃え上がったのだ。

 

呂布も微笑しながらその闘気をより膨らまし、

二人はそのまま競うように配下を引き連れ敵増援を引き裂いていく。

 

すると、

 

 

「なっ!?」

 

 

「うわっ、なのだ!!」

 

 

敵増援を切り進んでいた呂布が、

二人の少女と鉢合わせした。

 

少女の一人は黒髪を靡かせ、対峙していた黄巾賊の背後から現れた呂布に青龍偃月刀をサッと構え、

もう一人は赤髪に身長の倍以上はある蛇矛を一振りして同じく構える。

 

二人の持つ武器は、

呂布がよく知っている武器でもあった。

 

 

「…関羽、張飛か」

 

 

呂布は左手で掴んでいた黄巾賊の、絶命した男を投げ捨てながら言う。

その光景を見ていた関羽たち義勇軍の兵士は、

 

 

(コイツ、絶対敵だ)

 

 

と思ったであろう。

呂布は殺気を消さずに話すのだ。

 

 

「そうなのだ、鈴々は張飛なのだ」

 

 

そんな中、張飛と名乗る少女が呂布に向かって手を上げ、

先の呂布の発言に応える。

呂布はフム、と自身の顎に手をやって暫く張飛を見下ろすと、

 

 

「…燕人張飛も、可愛いらしくなったものだな」

 

 

と言って不敵に笑う。

それに対して張飛はムッと頬を膨らませた。

 

 

「うー…何か馬鹿にされた感じなのだぁ…」

 

 

「そのまさかだ、鈴々………貴様、何者だ?私たちの名を前から知っているように話すが…」

 

 

そこに張飛の肩に手をやりながら、

黒髪の少女…関羽が前に出る。

 

関羽の手には勿論偃月刀が握られており、

何かが有れば直ぐに斬り掛かれるように、

その尖端を呂布に向けていた。

 

呂布はそれに対して、

用心されても仕方ないと思いながら、

 

 

「…“今は”お前たちの仲間だ」

 

 

と意味深に伝えてみせる。

後に戦うと分かっているからこその言葉であろう。

 

呂布の言葉に関羽は何か引っ掛かりつつも、

その背後で呂布が率いてきた騎馬隊が黄巾賊を倒している光景を目にすると、

呂布の言葉が正しいということを理解し、

 

 

「そうか…失礼した。申し訳ない」

 

 

と、ゆっくりと偃月刀の尖端を呂布から反らし、

頭を垂れる。

 

 

「お兄ちゃん、ごめんなさいなのだ」

 

 

張飛も関羽同様、

頭を下げて謝罪する。

 

 

「…気にすることではない」

 

 

呂布は二人の謝罪に頷き、応える。

すると関羽と張飛はそのまま呂布をまじまじと見つめながら話始める。

 

 

「それにしても、敵陣を斬り進むようなその戦い方。貴方は並の武将ではないですね…」

 

 

「お兄ちゃんはかなりの兵なのだ!!」

 

 

呂布を見て感嘆の声を上げる関羽と張飛。

 

二人の発言は間違ってはいなかった。

少しの間があったといえ、

今の呂布は息を荒げず平然と血まみれで立っていたのだから。

 

 

「…何を言うかと思えば、お前たちにもこれくらいの事ならば軽々と出来るだろう?」

 

 

呂布は自分に匹敵する程の武を持つ二人に苦笑しながら言う。

それに対して、

二人は表情を厳しくして答えた。

 

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「…我等は好んで人を殺めたりしない」

 

 

「鈴々と愛紗が強くなったのは、みんなを護るためなのだ」

 

 

二人は呂布を貫くような鋭い視線で見る。

だが、呂布はそのようなことで怯まず、

 

 

「…全ては義兄…いや、義姉か?まぁどちらでもいいが。主の志の為にある武。姉妹同士、仲の良いことだな」

 

 

「「?」」

 

 

微笑すると、

戟を肩で支えながら二人の頭をポンポンと軽く叩く。

 

呂布は呆然とする二人をそのまま気にせず、

戟を再び持ち、馬を走らせる。

 

 

「…また、戦場で会おう」

 

 

そう一言告げて。

 

残った二人は遠ざかる呂布を見ながら呟く。

 

 

「行ってしまったのだぁ…」

 

 

「私たちの事を何かと知っていたりと、不思議な男だったな…」

 

 

とそこに、

二人の聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

 

「愛紗ちゃーん、鈴々ちゃーん!!」

 

 

声の主は手を振りながら関羽と張飛に近付く。

だが、

当の二人は血生臭い、この戦場に彼女が自ら現れた事に驚き、焦る。

 

 

「と、桃香様!?」

 

 

「こんな所に来ると危ないのだ、お姉ちゃん」

 

 

「はぁ、はぁ…あ、あのね、さっき本陣で見たんだけど、黒い鎧を着たおっきい人が敵兵をばったばったと倒しながらこっちに向かってたから、愛紗ちゃんたちが心配になって慌てて来たんだけど………すっっごいんだよ。あの人、愛紗ちゃんたちみたいに…」

 

 

息を切らせながら、だが目を輝かせながら言う少女…劉備は、

二人に此処に来た経緯を話すのだが、

 

 

「それならば、先程…」

 

 

「もう行っちゃったのだ」

 

 

「えぇっ!?…って、しかも会ったの!?」

 

 

関羽と張飛からまさかの言葉を聞くとそれに驚き、

そして“知っているのか、つまんない”とでもいう様に頬を膨らませる。

 

そんな劉備の機嫌を取る為に関羽と張飛は苦笑しながら慌てて話を続けた。

 

 

「そ、それにしても素晴らしい武人でしたよ。私たちでも敵わぬ程の」

 

 

「鈴々も一度手合わせしたいのだ!!」

 

 

関羽たちの話は成果が出たのか、

少しずつ劉備は興味を持ってその表情を戻していく。

 

 

「愛紗ちゃんたちが、そこまで言う人が居るんだねぇ…」

 

 

劉備の言葉に関羽と張飛は頷く。

 

 

「天下とは、それほどまでに広いということです……さぁ、私たちも負けてられません。桃香様の名、天下に知らしめる為私と鈴々、命を惜しまず戦います」

 

 

「だから、お姉ちゃん号令を出すのだ!!」

 

 

二人の言葉に劉備も同じく頷くと、

剣を高々と上げ、

 

 

「よぉっし!!劉備隊行くよ、突撃ぃ!!!」

 

 

数千の義勇兵に向かって号令を下す。

 

全ては廃れた漢王朝を復興する為に。

平和を望む民たちの為に。

 

高い士気の下、

雄叫びを上げ黄巾賊を圧倒する劉備率いる義勇兵。

その気炎、雄叫びは戦場に響き渡り、

 

 

「………」

 

 

黄巾賊を薙ぎ倒す呂布も、

その雄叫びに後ろを振り返る。

 

呂布はそれを見て微笑するのだった。

 

 

 

それから暫くして、

業城を守る程遠志のもとに伝令が走る。

 

 

「張角様、張宝様、張梁様、無事に地下通路より脱出出来たとのこと!!」

 

 

説明
張燕を配下に加えた丁原。
呂布たちは黄巾賊の最大拠点・業へ進攻する。

再版してます。。。
作者同一です(´`)

コメントありがとうございます。やる気出まする。
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