恋姫OROCHI(仮) 伍章・壱ノ壱 〜智将、集う〜
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それぞれ函谷関と漢中から戻ってきた一刀と剣丞たち。

洛陽で彼らを待っていたのは、魏と呉の知将たちだった。

 

 

 

 

 

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「周公瑾だ。真名は冥琳。どうか、見知りおき願いたい」

「陸伯言です〜。穏とお呼びください」

「魏の夏侯妙才だ。先日、姉者も世話になったそうで。私のことは真名の秋蘭と呼んで頂きたい」

 

早速開かれた全体会議で、新たに洛陽に来た面子の面通しをする。

冥琳と穏は呉本国にて政務の引継ぎと情報収集に時間が掛かったようだが、ようやく合流を見た。

そんな冥琳に対し、早速雪蓮が突っかける。

 

「それにしても遅かったわね〜、冥琳?」

「あぁ。残念ながら、王族の方々が誰一人としていらっしゃらなかったのでなぁ?」

 

冥琳は眼鏡を直しながら、どこか険のある声色。

ヤブヘビだったか、と雪蓮は繰り出した矛を早々に収める。

 

「それじゃ結局、母様たちは見つからなかったのね」

「ですね〜。まぁ、炎蓮さまがいらっしゃっても話がややこしくなるだけですので、引継ぎの速度はぶっちゃけいない方が早かったと思いますけどね〜」

 

さりげなく毒づく穏。

孫家三姉妹の母、炎蓮さんは梨晏をお供に連れ、ふらりとどこかへ行ってしまっているらしい。

二人とも出先から使いを出すような性格ではないので、所在は不明のようだ。

 

「それじゃ、誰に任せてきたの?」

「包と粋怜殿だ。雷火殿にも補佐をお願いしておいたから、万事上手くやってくれるだろう」

「雷火には服でも買っていってあげないとね〜」

 

どう考えても、孫呉の大ベテラン政治家と宿将に挟まれて、包がこき使われそうな配置だよな…

雷火へのお土産はシャオに任せて、包には美味しいものでも買っていってあげよう。

 

「本題に戻そう。我々は引継ぎと平行して情報収集にあたったのだが、その過程で一つ、気になる情報を手にした」

「気になる情報?」

「気になるというより〜、気がかりな情報、と言った方がいいかもしれませんね〜」

 

穏の言葉の方が不安が高まる…

 

「北郷は覚えているだろうが、張三姉妹は現在、呉国内を巡業中だ」

「……あ」

 

忘れてた。

 

「お、伯父さん…?」

「い、いや!だって人和から計画書見せてもらったのって異変が起こる結構前だし!その後もドタバタで……すっかり、忘れてました…」

 

グゥの音も出ない、完全な俺のミスだ。

非戦闘員の天和たちの保護なんて、真っ先に考えなきゃいけなかったのに…

 

「き、気にしないで一刀。私も初耳だったんだから!」

「そうそう。あぁ言うってことは、きっと冥琳たちだって忘れてたんだから〜」

 

蓮華と雪蓮の慰めにもならない慰めも、今はありがたい…

……ん?蓮華が初耳?

 

「…建業で人和が提出していった巡業計画書には、貴様の許可印が捺してあったのだがなぁ〜、雪蓮?」

「……げぇっ!」

「そういえば、俺が人和から話を聞いたときって雪蓮と一緒にいて…」

「あー!あーー!!」

「みんなには私が後で話を通しておくわ、って判子を…」

「……やはりそういうことか」

「ヤバイッ」

 

自分のミスがバレた雪蓮が身を翻す。

 

「思春!」

「はっ」

 

蓮華の号令から刹那、思春が一瞬で雪蓮を絡め捕る。

 

「ちょっ、痛い!痛いわよ思春!」

「申し訳ありません。蓮華さまのご命令ですので」

 

にべもない思春に引っ立てられる雪蓮。

 

「まぁ、色々と言いたいことはあるが、それはまた後にしよう。それで、その巡業計画書なのだが…」

 

と言いながら、紙を数枚、穏に配らせる。

どうやら計画書の写しのようだ。

 

「え…」

「あら〜〜」

「いやはや、これは何とも…」

 

それに目を通した娘たちから、微妙な声が漏れ聞こえる。

どんな内容だったっけ?

俺のところにも紙が回ってきたので、剣丞と顔を突き合わせて覗き込む。

 

「あー…」

「…………」

 

そこには、本当にざっくりとした計画しか書かれていなかった。

巡業期間がざっくりと四ヶ月から八ヶ月の間。

巡業の移動経路も書かれていない。

オマケに予算はたっぷり余裕を持って請求している。

 

「精査をしなかった結果、現状我々は彼女達の足取りを追うことが出来ないのだ」

 

パンパンと、手の甲で紙を叩く冥琳。

前に魏を回るときの書類にも目を通したけど、その時は行く街の順番、通る道、日取りまで全て細かく記入されていた。

人和も風や稟あたりと詰めながら、最終的に華琳に許可をもらえるまでにしたんだろう。

 

「んまぁ〜予算はともかく、予定が立てづらいってのは分かりますけどね〜」

 

呉もかなり広い領土を持っている。

ただ他の二国と違うのが、首都が国の北端にあること。

さらには異民族の邑なども点在しており、あまり隅々まで交通網が広がってるとは言えない。

道路などの整備率が高い魏と比べると、日程などの予定は立てづらいかもしれない。

その辺りは穏もよく分かってる、ということなんだろうけど…

 

「恥ずかしながら、思春と明命を欠いていた事もあり、彼女らの詳細な足取りは掴めていない。まずは会稽方面に向かったらしいのだが…」

「分かった。それじゃあ、呉に入って天和たちの捜索をしよう!」

 

これで今後の方針が一つ決まった。

 

 

 

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「我らの報告はこれで以上だ。次は秋蘭の番だな」

「…そういえば、秋蘭さまは何ゆえお一人で?稟さまと許昌の方におられたのでは?」

 

冥琳と穏の報告が終わったところで、凪が俺たちの疑問を代弁してくれる。

 

「うむ。姉者が去った後、我々は異変も含めた情報収集の範囲を広げたのだ。そこで、北方の袁紹たちが異変内部の敵と交戦中であるとの情報を得た」

 

袁紹って麗羽姉ちゃんだよね?との剣丞の耳打ちに、俺は頭を抱えながら頷いた。

 

「なんでまたそのような面倒なことをしたのじゃ?」

 

ふぅと呆れた溜息をつきながら、これまた当然の疑問を口にする祭さん。

 

「それがのぅ。蜀陣営の異変調査の割り振りを決める席で、突然麗羽の奴が『私の力を貸して差し上げてもよろしくてよ!』などと言い出してな…」

「桃香さまが断り切れなくて……それで麗羽さんの旧領である河北を領している魏にお願いして、何とか宛がってもらったのよ」

「お願いっていうか、完全に丸投げだったけどね〜」

 

渋い顔の桔梗、苦笑いの紫苑、悪戯笑いの蒲公英が、それぞれに事情を話す。

 

「まー魏としても、手が足りなくて困っていたところだったので、渡りに船だったんですけどね〜」

「とんだ泥舟やったけどな」

「まぁ…桃香の申し出のおかげで、ここ洛陽に月たちを置くという名案に至ったのだし、袁紹には袁術たちも抱き合わせ、何かあったら遼東の白蓮を頼れ、といって送り出し、結果として四方丸く収まったのだが…」

 

どうやら、秋蘭の四方に白蓮は入っていないみたいだ。

 

「こうなってしまった以上、斗詩ちゃんでは止められないし、七乃ちゃんでどうにかなるとは思えませんね〜」

「いざとなれば、あ奴は美羽の安全が第一だからな」

 

美羽たちの手口は痛いほど知っている穏と冥琳。

 

「うむ。だからこちらには私が、袁紹のもとには稟を派遣したのだが…正直、どうなるかは分からん」

 

事態はあまり良くない方向らしい。

 

「その敵の情報は何かある?白装束や鬼のような本当の敵なのか。それとも、剣丞たちの仲間なのかを見極めなきゃならない」

「斥候の報告では、敵は奇妙な兵器を使うそうだ。それは…」

「もしかして、パーン!ってデカイ音がするやつなのだ?」

 

鈴々が秋蘭の話にカットインしてくる。

 

「あぁ、そうだ。よく分かったな」

「儂らは漢中で同じ兵器を持った連中と遣り合って来たからの」

 

詳しくはまだ聞いていないけど、鈴々と桔梗、そして今は怪我の治療でいない星の三人は、松平家、後の徳川家とやりあってきたらしい。

 

「火縄銃を使ってるってことは、織田家かな?」

 

剣丞に聞いてみる。

 

「…とは限らないかな。所在が分からない中には、織田家の他にも鉄砲が得意な八咫烏隊…雑賀衆もいるし、実際に戦国時代で過ごしてみると、

 数の差はあれ、どの国も鉄砲は持ってるんだ。騎馬隊で有名な武田家も持ってる。だから単純に鉄砲があるってだけで判断は出来ないよ。

 もちろん、白装束たちが火縄銃を持っている可能性だってあるだろうし」

「そうなのか……」

 

長篠の戦とかの知識だと、火縄銃の織田家対騎馬の武田家っていうイメージがあったけど、実際のところは違うようだ。

教科書知識もあんまり役に立たない。

 

「でも、敵もそんなに危ない兵器を持ってるなら、麗羽さんも無理に戦わなくてもいいと思うのー」

「…それが、袁紹が敵将の一人と思しき人物を見かけたらしいのだが、そ奴が華琳さまに似ていてムカつく、というのが開戦の原因らしい」

「なんじゃそりゃ?」

 

麗羽らしいムチャクチャな理由だな。

 

「梅だな、間違いなく」

 

顔を押さえながら、剣丞がポツリと呟く。

 

「梅って娘は、そんなに華琳に似てるのか?」

 

華琳に似てるって、だけですぐ出てくるんだから、多分似てるんだろう。

 

「まぁ、こう…金髪で髪の毛がクルクル巻いてるから似てると言われれば似てるけど…どちらかというと麗羽姉ちゃんの方が似てる、かな?」

「あー……」

 

要するにあれだ。同属嫌悪だな。

 

「ということは、烏さんと雀さんも一緒ですね」

「確か、二人の里帰りについていくって言ってたからな」

「その烏と雀っていうのは?」

 

詩乃に聞いてみる。

 

「はい。本名を鈴木重秀・重朝。紀州は雑賀の庄を本拠とする、鉄砲傭兵集団の頭目です」

 

もしかして雑賀孫一ってやつかな?

なおも詩乃の説明は続く。

 

「特に鈴木重秀…烏さんは長距離狙撃の達人。袁本初殿のお命、非常に危険かと」

「いぃ!?」

 

マジか!?剣丞を見る。

 

「う、うん……確か、二百メートルくらいの距離なら、正確に頭を…」

 

こめかみに当てた人差し指をドンッと、鉄砲のジェスチャー。

 

「え、えらいこっちゃ!早くなんとかしないと!」

「落ち着け北郷。そうならんように、稟を派遣したのだ」

「…でもさっき、どうなるか分からんって」

「……どうにかなったら、それは袁紹のせいだろう」

「早く!!」

「んまぁまぁ、伯父さん落ち着いて…」

 

剣丞が優しく背中を摩ってくれる。

 

「とにかく、次は天和姉ちゃん達の捜索と、麗羽姉ちゃんの救出?をするってことでいいかな?」

「あ、あぁ…そうだな。それじゃあ悪いけど、秋蘭に冥琳と穏、それと軍師のみんなは残ってくれるか?すぐに派遣する人員を選出したい」

 

気合の入った返事に身が引き締まる。

まだまだ助けなきゃいけない人が各地にいる。

改めてそう思った。

 

 

 

 

 

 

説明
どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、81本目です。

それぞれの過去から戻ってきた一刀と剣丞。
彼らを待っていた者とは…?

新章開始直後ですが、この後に外伝?を一つか二つ入れる予定です。
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コメント
センリさん>一応、最初の頃に全員の居場所は特定していたはずですよ。(どこかは忘れましたが…(DTK)
いたさん>本当に多いんですよね〜^^; この辺りまでは構想段階で作ったところなので大丈夫でしょうが、齟齬がないよう常に気をつけています。何せ最初のほうは自分でも忘れてたり…(ぇ(DTK)
フォックスさん>慧眼恐れ入りますm(_ _)m 大体当たってますねw アマカノもお読み頂けたようでありがとうございます^^(DTK)
過去のSS見てアマカノしてみました。(壬月ではないが)全身が痒くなりました。(フォックス)
なぜ梅達がいないのかがここで判明。(センリ)
改めて確認すると、登場人物の多さに溜息が出ますね。 まさに無双オロチ! ここまで練り上げた作者様の構想には、驚きを禁じ得ません!(いた)
梅ちゃんにとって小夜叉以上の天敵登場か。(中身と高笑いも割と似てるし) 三姉妹は案外真琴&市といるとか? (市と地和(中の人がひよだし)気が合いそう。)麗覇は悪運で弾丸逸れる気がしますから死なない気がします。(シリーズ通じて負け続けても死ななかったし。) (フォックス)
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