かけがえのないもの |
はなちゃんとお父さんは、離れて暮らすことになりました。
お母さんがいなくなってから、お父さんの心はとても弱ってしまい、
声もどこかへ迷子になりました。
小さなはなちゃんと、とても共に過ごせる状態ではなかったのです。
小さなはなちゃんは、お父さんの親戚のところに行きました。
でも、はなちゃんはお父さんのことがすごく心配でした。
最後に見た、お父さんの悲しく寂しげなお顔が、
目を瞑るとふっと浮かんでくるのです。
あんなに大好きだった絵も描けなくなりました。
「…」
はなちゃんは、お母さんの言葉を思い出します。
こころの目で見たものを、
大切にたいせつにしてね
はなちゃんは、裸足で部屋を飛び出して、お父さんの元へ走りました。
同じ街の中だったけれど、小さなはなちゃんにとってはすごく遠い距離でした。
半分しか見えない世界で、色んなものにぶつかりました。何度も転びました。
でも、はなちゃんは走り続けました。
そして
「おとうさん!!!」
薄暗いお家の中の、奥のおくの隅っこで、
丸くなって泣いているお父さんをぎゅうっと抱きしめました。