〜薫る空〜16話(拠点:天和√)
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黄巾の乱にて、ひとり単独行動をとり、軍を混乱させた罰として、俺は例の三人の世話係となった。

 

今日は、その世話係としては初めてあの三人に会うわけなんだが。

 

【天和】「かーずと♪やっときた〜」

 

【一刀】「おっと…」

 

【地和】「な―っ…ちょっと、お姉ちゃん!!」

 

待ち合わせていた店に入ってみると、やっぱりというか、顔を合わせた瞬間抱きついてくる天和。

 

【一刀】「て、天和…当たって……」

 

【天和】「ん〜〜〜♪」

 

かなり密着してくるので、当然ながら胸も押し付けられる。

 

そんな事は気にもせず、天和はひたすら俺に抱きついている。

 

【人和】「………破廉恥」

 

小さく呟いていたが、俺にはバッチリ聞こえてしまった。

 

【一刀】「はぁ…」

 

初っ端からかなり不安になってきた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、天和をなんとか引き剥がし、4人で昼食をとっていた。

 

引き剥がしたものの、やはり俺の隣は譲れないらしく、天和は俺の隣に座ってきた。

 

店の中はそれなりに活気はあるものの、騒いでいるという風ではなかった。

 

その光景をみて、ひとまず安心する。彼女達があの黄巾のトップだったとは誰も思っていない。

 

その事実が目の前にあるのだから。

 

【一刀】「食べながらでいいから、聞いてほしいんだけど」

 

【天和】「ん??」

 

【地和】「何?」

 

昼食をとっている最中、俺は三人に声をかけた。

 

2人がこちらの言葉に疑問の声をあげる。人和も言葉には出していなかったが、顔はこちらに向けていた。

 

【一刀】「あぁ、これから俺が三人の世話係になったから、よろしくな」

 

【天和】「やったぁ〜〜〜」

 

と、また天和が俺に抱きついてくる。………だから胸当たってるってば。

 

【地和】「ちょ、ちょっと!そんな聞いてな――」

 

【人和】「よろしくお願いします。北郷さん」

 

【地和】「え、えぇ、人和?」

 

【人和】「今更この人を拒否しても仕方ないでしょう?」

 

【一刀】「ははは…まぁ、よろしくな」

 

【地和】「あぅ………」

 

明らかに拒否する地和と言葉で受け入れてもかなり“仕方なく”という雰囲気のある人和。

 

二人の反応を見ていると、苦笑いしか出てこなかった。

 

そのまま、しばらく昼食に勤しんでいると

 

【人和】「それで、私達の次の公演場所とかは決まっているんですか?」

 

人和が口を開いた。

 

【一刀】「ん?…あ、あぁ…一応、あることはある。」

 

【地和】「一応って何よ」

 

【一刀】「いやまぁ…なんというか」

 

【天和】「どういうこと?」

 

【一刀】「この後そこに連れて行くよ。とりあえず食べてくれ」

 

俺は逃げるようにそういった。場所はある。確かに。しかし、あの場所は言葉ではなかなか言いにくい場所だ。

 

まだ、いいたい事はありそうだが、三人はしぶしぶ料理に手をつけていく。

 

そして、おおよそ食べおわり、俺達は店を出た。

 

 

 

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【天和】「一刀〜〜」

 

【一刀】「ん?」

 

【天和】「んふふ〜〜♪だ〜いすき」

 

やっぱりというか、もはや早くも定着しそうにある天和の抱擁。

 

といっても、腕に抱きついているだけだが。

 

【地和】「なんだろう。異様に腹が立つ…」

 

【人和】「…はぁ」

 

うしろから、そんな俺達に向けて、明らかに好意的ではない視線がむけられてた。

 

 

しかし、そんな事も気にせず、天和は相変わらずで、俺は無理に押しのけることも出来ず、そのまま三人の舞台のある場所へと向かった。

 

 

【地和】「………………一刀?」

 

【一刀】「いや、いいたい事はわかる。わかるんだが…」

 

そして、その場所に到着したとたん、ここにくる途中ずっと黙っていた地和が口を開いた。

 

【一刀】「悪い、どうしても広さとか考えるとここしかなくて…」

 

そこは、少しの荒地の上に小屋が立っているだけという場所だった。

 

俺が一応といったのはこのためだ。“場所”はあるのだ。しかし、“環境”が伴っていなかった。

 

 

【地和】「こんな場所でどうやって歌えって言うのよ!」

 

【人和】「ちぃ姉さん」

 

こちらに食いかかろうとする地和を人和が制止する。

 

【人和】「あれだけのことがあって、また歌えるというだけでも私達にとってはありえないくらいの事よ。場所はこれから作っていけばいい。」

 

【地和】「ぅ………」

 

こうしてみると、この姉妹の力関係がよく見える。

 

【一刀】「すまないな。俺も全力で協力させてもらうからさ」

 

【地和】「当然でしょ!」

 

 

 

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それから、俺達は早速舞台の製作に取り掛かった。

 

とにかく、最初に目に付いたのは観客と歌い手の立ち位置の高低差。

 

どうしても歌い手は目立つ必要があり、そのためには観客よりも高い目線に立たなければならない。

 

しかし、今から土を盛って舞台を固めていくには時間が掛かりすぎる。

 

と、悩んでいたところで。

 

【天和】「だったら、見に来てくれたみんなに降りてもらえばいいんじゃないかな〜」

 

天和が呟いた。

 

【一刀】「みんなに降りてもらう?…………あ」

 

【人和】「そうだわ。周りを下げてしまえば………」

 

【天和&地和】「????」

 

地和がいまいち理解できていない。というか、言いだしっぺの天和が何故同じ顔をするか。

 

【人和】「でも、それでも時間も体力もかなり必要になってしまう…」

 

【一刀】「いや、“掘る”事に関してなら問題はない。」

 

【人和】「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【真桜】「ほんまに人遣い荒い隊長やなぁ」

 

【一刀】「ごめんごめん。こんど埋め合わせするから」

 

【真桜】「まぁ、ええけど!」

 

勢いをつけて、真桜は地面を掘り起こす。

 

その手に持っているのはかなり大きな……ドリルっぽいもの。というかドリルだ。

 

ドドドと轟音を鳴り響きかせ、次々に土を掘り返す。

 

【天和】「はやいはや〜い」

 

なにやらかなりはしゃいでいる人が一名。

 

【地和】「へぇ〜。おお!」

 

いや、二名か。さすが姉妹といったところか、根底の部分では似ているものがある。

 

 

【人和】「………」

 

人和は無言でただその光景を見ていた。

 

口には出していないが、やはりこの子もあの二人の妹なんだろう。

 

 

 

 

 

 

そして、しばらくし、舞台が出来上がった。

 

【真桜】「ふぅ……できたで〜」

 

【天和】「すごーい!!」

 

【地和】「結構いいじゃない♪」

 

【人和】「これなら、思い切り歌えるわね…」

 

三人はその出来上がった舞台を前にそれぞれの反応を見せ、喜んでいた。

 

【一刀】「真桜、おつかれさん。ありがとうな」

 

【真桜】「ほんまやで〜…ちょっとつかれたわ…」

 

【一刀】「あはは。明日休みにしとくから、ゆっくりやすんでくれ」

 

【真桜】「あいよ〜〜…」

 

すこし、弱弱しくも真桜は返事を返す。

 

 

 

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真桜が帰った後、舞台が出来上がったということで、俺達は舞台の演出や、構成など、具体的に制作を進めていった。

 

ライブなんてあまり行ったことは無かったが、少ない知識で俺も出来るだけ意見をだした。

 

 

そうこうしているうちに、空は暗くなっていき、今日はここまでにしようという事になった。

 

【地和】「それじゃ、一刀。またね〜」

 

【人和】「一刀さん、また」

 

三人は俺と別れ、帰路についた。

 

俺は、そのまま三人を見送り、しばらくその場所にいた。

 

真桜が作った舞台の観客席。

 

席と呼べるかはともかくとして、俺はそこから舞台の上を眺めていた。

 

ここから、皆はあの三人の歌っている姿を見るんだ。

 

以前見たときは、俺は黄巾のことで頭がいっぱいで歌になんて集中できなかった。

 

だから、おそらく次が俺が目にする初めての彼女達の公演。

 

 

そう思うと、少し胸が跳ねる。

 

楽しみ…なんだろう。

 

こちらの世界に来て初めての感覚。何かが楽しみになる。

 

【一刀】「ふぅ………」

 

思わず、ため息。

 

悪い意味ではなく、満たされて、溢れそうになる感情を治めるように。

 

【天和】「一刀♪」

 

――ムギュ。

 

【一刀】「うわっ…………天和?」

 

【天和】「うわって、ひどいんじゃない〜」

 

【一刀】「あぁ、ごめんよ……って、お前帰ったんじゃなかったのか?」

 

【天和】「ん〜。帰ったけど、またきたの♪」

 

【一刀】「意味が分からん……」

 

いや、今更天和の行動を把握できるとは思っていないが…

 

【天和】「一刀はなにしてたの?」

 

【一刀】「ん、いや、天和達の舞台、どんなだろうなと思ってさ」

 

【天和】「前に一度見に来てくれてたじゃない。忘れたの?」

 

【一刀】「あぁ…って、知ってたのか?」

 

【天和】「だって一刀の服すごい目立ってるんだもん♪」

 

天和にはいわれたくない気がするが……まぁ、たしかにここではかなり目立つ服装だな。

 

改めて自分の格好をみて思った。

 

【一刀】「まぁ、あの時はちょっと考え事しててさ。よく覚えてないんだよ。…ごめんな」

 

【天和】「そっかー…。じゃあさ」

 

黄巾のことでとはいえなかった。

 

でも、天和はそんな俺に対して、言葉をつなげる。

 

【天和】「今から、歌ってあげるよ」

 

【一刀】「は?………って、ちょっと!」

 

天和はそういって、俺の手を強引に引っ張る。

 

本気で抵抗すれば、なんてことは無い力だけど、俺にそのつもりは無かった。

 

天和に引きずられ、俺は舞台の真正面。最も歌い手に近い場所に来た。

 

そして、天和は俺から手を離すと、舞台へ上がり、俺のほうを見ていた。

 

 

 

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【一刀】「……………ほんとにするのか?」

 

【天和】「今日は、てんほーの歌を聞きに来てくれてありがと〜〜!」

 

聞いていない。

 

天和はそのまま舞台のリハーサルのようなものを続ける。

 

普段は三人でしているためか、一人ではどうにも口上のテンポが鈍い。

 

それでもとめることなく、天和は言葉を続けていた。

 

【天和】「みんなー、てんほー皆のことだーい好きー!皆はてんほーの事好きになってくれるかなー」

 

本来なら、ここで観客から様々な歓声が飛び交う。

 

しかし、今、ここにいる観客は俺一人だ。

 

歓声など、あるはずも無く、天和の声は夜の空気に消えていく。

 

【天和】「てんほーは、みんなのこと…大好き…。………好きになってくれるかな…?」

 

それでも、天和はまた同じ言葉を続けた。

 

俺は黙ってそれを見続けている。

 

相変わらず、天和は俺を見ている。

 

【天和】「好きになって…くれるかな?」

 

これは、舞台の予行演習。

 

【一刀】「………」

 

天和の声は、やがて舞台の観客ではなく、一人の人間に向けられるものへと変わっていく。

 

【天和】「………一刀…私のこと、好きになってくれるかな…?」

 

舞台の予行演習だから、これはセリフ。

 

あらかじめ、決められた言い回しなんだ。…………でも。

 

【一刀】「あぁ、好きだよ」

 

思い出される、今日の記憶。天和は何度俺に大好きといった?

 

【天和】「一刀…大好き!!!」

 

これが、この日の最後の大好き。

 

 

天和は舞台から、俺に飛び掛る。

 

【一刀】「っと……おいおい。歌は?」

 

【天和】「いいの〜〜。次までのお楽しみ♪」

 

【一刀】「なんだよ、それ」

 

思わず笑ってしまう。結局何がしたかったのか。

 

【一刀】「まぁ、いいか」

 

【天和】「ん♪」

 

【一刀】「んじゃ、帰ろうか」

 

【天和】「うん♪…あ、一刀」

 

機嫌よく返事をした天和が俺を呼び止める。

 

【一刀】「ん?」

 

【天和】「おぶって♪」

 

【一刀】「へ?」

 

いきなりの言葉に変な声で返してしまった。

 

【天和】「つかれて動けないの〜〜」

 

【一刀】「……はいはい」

 

俺だって疲れている。自分で歩け。天和を見ていると、そんな言葉が引っ込んで消えてしまう。

 

苦笑いになりながらも、答えたくなる。

 

【天和】「ん♪それじゃ、いそいでかえろ〜」

 

【一刀】「普通に帰るよ」

 

【天和】「え〜、それじゃ晩御飯に遅れる〜」

 

【一刀】「昼間あんだけ食べたんだから平気だろ」

 

【天和】「むぅ………」

 

まぁ、正直。

 

天和とちょっとでも長く居たい。

 

言わないけど。

 

【一刀】「じゃ、ほら、帰るぞ」

 

【天和】「はーい」

 

俺は天和に背中を向け、彼女を背負う。

 

【天和】「一刀、ありがと〜………ちゅ♪」

 

突然、頬に柔らかい感触。

 

【一刀】「お、お前……」

 

【天和】「えへへ〜」

 

【一刀】「はぁ…いくぞ」

 

【天和】「〜〜♪」

 

俺達は、そのまま帰路につく。

 

今更、鼻歌で歌いだす天和。

 

それでも、十分聞く価値はあって、

 

夜の街の中に、たった一人の観客を前にその歌は響いていた。

 

 

 

 

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あとがき

 

 

拠点フェイズ天和√でした。

 

どうでしたでしょうか(´・ω・`)

 

なんか、天和が普通の子になっちゃってないかものすごく不安です。

 

最近天和のこと結構好きなので、書いてて楽しかったですが、やっぱりキャラ壊れてないかどうかは心配ですねぇ…

 

しかし、自分でこうやって小説書いてると原作してたころより好きになってるキャラ結構いて、結構まだまだ恋姫のこと全部見れてなかったんだなーと思う日々です。

 

 

 

さて、次回は薫√です。

オリキャラなだけにどうやっていこうか迷うところではありますが、がんばります。

 

であであ(`・ω・´)ノ

 

 

説明
カヲルソラ16話。
拠点フェイズ天和√です。
さて、前回いきなり好感度MAXだった凪ですが、
天和にはそんなものすらありません。いきなり落ちてますのでw
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コメント
やべぇ、天和めっちゃかわえぇわぁ〜〜(ケン)
なんかこれよんで天和好きになった(motomaru)
とてもよかったです。  次の薫、期待してます。(キラ・リョウ)
天和のキャラ壊れてなかったッスよーw 次の薫も期待してますから〜!(狐狗狸)
ほのぼのしていて良かったです。(ブックマン)
さてさて、次は一刀が薫にフルボッコされる√です(ぉぃ(cheat)
天和ぽい感じが出てると思いますよ!次回の薫には期待♪(温泉まんじゅう)
よし、よし かなり天和ぽさがあって良いと思いますよ〜( =w=) さぁ・・・・次回は か お る √です・・・・かなり!かなり!期待ですよ!(Poussiere)
久々の全1(ぁ(Poussiere)
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真・恋姫無双 カヲルソラ 一刀 天和 地和 人和 真桜 

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