月夜桜花【第六部 遥か昔への飛躍】
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六、遥か昔への飛躍

此処は、西暦1294年、鎌倉時代の後半に当たる時代である。

「う〜ん、さてどうしたものか・・・」

頭を傾げるこの人物の名は、安倍 清成(あべの きよなり)、清成は、安部清明(あべのせいめい)の4代目の血族にあたり、中でも末端に位置している末っ子だ。

「どうした?」

声をかけてきたのは、長男の聖一(せいいち)だった。

「おや、兄上、いや、新しく生み出した業の名に困っていましてな・・・」

「どれどれ・・・」

聖一は、そう言って、清成の書物に目を通す。

「また、たいそうな術だな・・・」

「ええ、大鵬が教えてくれた『魔術』と言うものに、陰陽の図式を加えたものです」

「ん〜、名前はそのままで良いと思う、陰陽魔術で良いだろ」

「本当にそのままですね・・・」

清成は、呆れつつもその名前で良いと思った。

「名前はともかく、見る限りだと、出力不足で巻き込まれそうな感じもあるが・・・」

「大丈夫です。一回、小型の物を生成しましたから」

清成はそう言うと、一つの金属球を取り出す。

「これは?」

「どうですか?綺麗な表面をしているでしょう」

「確かに、職人でも出せぬほどの光沢が出ている」

・・・当たり前ではあるが、この時代に機械というものが普及している筈も無く、完全なる球体を造る事はおろか、出来たとしても多面体が限界だった・・・。

「なるほど、確かに完成すれば、たいした術になりそうだな」

「ええ、なので近々、大掛かりな業の披露を考えていまして・・・」

清成はそういうと、日時と、業の披露に使う材料を聖一と考え始めた・・・。

そして、業の披露の日が来た。

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「いよいよですね、兄上」

「そうだな・・・」

しかしながら、聖一は不安を抱えたままだった。

(本当に出力不足にならないだろうか・・・)

そこに・・・

「久しいな!清成、聖一!」

そこに現れたのは、体が大きい僧だった。

「おー、大鵬!、よく来てくれた」

彼の名は、襄醍魏 大鵬(じょうだいぎ たいほう)、陰陽の力を有し、清成に『魔術』を教えた張本人だった。

「それで、今回は何をするんだ?」

大鵬は、清成に聞いた。

「ああ、新しい業の披露をしようと思ってな、まあ、見ていってくれ」

「おう」

大鵬はそう言い、中庭へと向かった。

清成と、聖一は、必要な材料を持って、中庭へと移動した。

中庭はすでに清成が呼んだ知人や、親族で、人だかりとなっていた。

その中で一人、大衆から離れ、大鵬が術の媒介となる陣の側に居た。

「頑張れよ!」

大鵬が清成に声をかける。

「了解」

清成がそういうと、聖一が材料を陣の中心に投げ入れる。

「束」

清成がそう言うと、材料すべてが宙で止まった。

「ほおぉ・・・」

大鵬が驚く

「我、清成の名において、術を開放し、今人にある物を馬車に変換する」

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すると、陣の中心にあった材料が、いっせいに青色の光を放ち始め、ぐるぐる回り始め、馬車へと形を変えていく・・・

「これは、凄い・・・」

聖一が声を上げる。

ところが・・・

「ぐぅ・・・」

清成が、顔を歪める。

「どうした!」

聖一がそういった瞬間!

ゴオオオオオオオオォォォォ!!!!

青い光に混じって、赤い光が渦を巻き始める。

「清成!」

大鵬が、声を上げ、清成に近づこうとしたが、足を陣に入れてしまった。

次の瞬間!

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁ」

大鵬は赤い光に触れ、巻き込まれ始める。

「結!」

聖一が慌てて大鵬を縛り、陣から引き剥がそうとする。

しかし・・・

「や、やめとけ聖一・・・、巻き込まれたら最後、逃れる術は無いんだ」

大鵬が苦しみながら言う

「た、大鵬・・・」

清成は、腰砕け状態で、大鵬を見る。

「良いか、清成・・・、その術は絶対に扱えるものが現れる。絶対に捨てるな・・・、そ、そして、これだけは言っておく、恨みはしない、それだけは覚えておけ・・・」

大鵬はそう言って、陣に飲み込まれていった。

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以後、清成はこの術を封印し、この術の発展系である危険にさらされない物へ、この術を改良していった。しかし、清成は元々霊力が無く、術そのものも、物を直す程度の小さい力を有する物に収まってしまった。

・・・やがて、清成は一人の女性と会う。

「幕府の命により、あなたを守りに来ました」

清成がそういった方向には、非常に美しい黒髪と、背から素晴らしいほどに綺麗な両翼を持つ女性、神伝手 吹雪(かみのつて ふぶき)が居た。

・・・両翼を持つ人間『翼人(つばさびと)』は平安時代まで、日本の人口数の約半分を占めていた。

しかし、次第に翼を持たない人達との交配が進み、数が少なくなっていった。

鎌倉時代においては、各地に転々と居るぐらいで、居たとしても、ひっそりと暮らしている者が多かった。

しかしながら、翼人は古来より、人並み外れた霊力と、陰陽術を使うことが出来た。

そして、その中でも大きい能力を有していた吹雪は、癒しの巫女として、幕府から多大な信頼を得ていた。

戦事が起これば、戦場に向かい、傷を癒し、その笑顔で、体だけでなく、兵の心を癒していた。一方では、貧しくて治療が受けられない人にも、無償で手当てをし、まさに『癒しの巫女』の名に相応しい業績を立てていた。

「解りました。では、中へどうぞ」

吹雪がそう言うと、女房が清成の荷物を取り、中へと案内する。

その晩・・・

吹雪が、縁側で月を眺めていた。

「美しいですね」

清成は、そっと声をかける

「ええ」

「必ずや、あなたをお守りしてみます」

清成がそう言うと、吹雪が首を振る。

「いいえ、清成様、あなただけが、守る必要はありません」

「え?」

清成は、あまりの言葉に驚く

「私も、あなたを守ります。私の事を守り、傷ついた身体を癒しますから」

吹雪はそう言って、その場を後にした。

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以来、二人は守護と、主の関係ではなく、恋人として付き合い始めた・・・。

そして時は過ぎ、西暦1297年、二人の赤子の声が、境内に鳴り響いていた。

「この子らが、丈夫に育ってくれれば良いですね、清成様」

太陽が照らす軒先、二人の赤子を抱いた吹雪がそう言う

「そうだな、吹雪」

桜の木を眺めていた清成がそういう、清響はあれから、吹雪を生涯守り抜くことを誓い、

結婚した。

そして、光乃芯(こうのしん)と郷鳴(きょうめい)を授かった。

「この桜のように、二人とも丈夫に優しく育つと良いな」

清成はそう言い、再び桜の木を眺めた。

・・・時同じくして、一人の少女が産声を上げた。

「観琴、見てくれ、そなたと同じ両翼の天使のようだ」

嬉しそうに、少女を抱き上げているのは、劉千路 中次(りゅうちじ なかつぐ)

「何を言いますか、中次様、あなたにも両翼があるではないですか」

そう声をかけたのは、神乃宮 観琴(かんのみや みこと)、両者が言うように、二人とも体に両翼が付いていた。

「そうだ、名を付けねば・・・」

中次は、ふと夜空を見上げる。

夜空には、満月が光り輝いていた。

「そうだ!そなたの名は、天月(あまづき)、天を照らし続ける優しい月だ!」

中次がそう言うと、天月は無邪気に笑った。

「天月ですか、良い名前ですね・・・」

観琴は、そう言って、天月の頭をなでる。

「そうでした!この事を吹雪にも、知らせなくては」

吹雪と、観琴は古くからの友人であった。

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そこへ・・・

「観琴ー」

「え?吹雪」

見上げると、両翼を広げ舞い降りてきた吹雪が居た。

「子供が生まれたのよ!」

「え?本当に!私の子供も、生まれたのよ」

吹雪は、天月を吹雪に見せた。

「可愛い子ですね、何時生まれたのですか」

「一昨日の夜に生まれました」

「あら、私の子供達と一緒ね!」

この夜、二人は朝まで話し込んだ・・・。

…数年が経った頃、少年と少女がはしゃぐ声がした。

「光乃芯様ー、待って下さい」

「早くしないと、時間切れになるよ、天月」

光乃芯と、天月は元気に中庭で遊んでいた。

しかし、それを羨ましそうに眺めている少年が居た。

「母上、何で私も遊んではいけないのですか?」

「響鳴、あなたは、激しい運動をしてはなりません」

吹雪が、響鳴にそう言う

「吹雪、少しぐらい遊ばせて上げても・・・」

響鳴の事を見て、観琴がそう言う

「いいえ、駄目なものは、駄目なのです」

吹雪はそう言うと、自室へと姿を消してしまった。

そこへ・・・

「観琴殿、少し良いかな」

清成が声をかけた。

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「はい、大丈夫ですが・・・」

「部屋に来てくれ」

「?」

観琴は、不思議に思いつつも清成についって行った。

後ろでは、響鳴の鳴く声がした・・・。

「どうしたのですか?」

観琴が聞くと、清成はこう言った。

「響鳴が、外で激しく運動が出来ないのは、先の吹雪の話で知っておろう」

観琴は頷く

「うむ、観琴殿は、吹雪の良き友人だから伝えておこうと思ってな」

「響鳴殿が、どうかしたのですか?」

観琴は、不安になった。自らの娘と同じ時期に生まれ、何より友人の子供だからだ。

「ああ、響鳴は霊力の半分以上が、光乃芯に持っていかれてしまっている。無論、この事は、息子たちは知らない、もちろん、光乃芯が悪いと言うわけではいのだ」

「そんな・・・」

清成は、夜空を見上げて言った。

「生きていくうえでは、何の問題も無い、只、人並みの事が出来ないのだ」

「そう・・・でしたか・・・」

「だから、吹雪には何も言わないでくれ、苦しいのは俺よりも、吹雪なのだ」

「ええ・・・」

二人はしばらく会話してから、部屋を後にした。

「では、又」

観琴はそう言うと、屋敷を後にした・・・。

翌朝、光乃芯は、響鳴を蹴鞠で遊んでいた。

「響鳴行くぞ」

光乃芯がそう言い、蹴鞠を蹴り上げ、響鳴に渡す。

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「あ、兄上!そんなに高く蹴ったら…」

響鳴の忠告もむなしく蹴鞠は、父親の間に飛んでいく

ガッシャーン…

「うわ、不味い」

光乃芯がそういった瞬間、蹴鞠がとんでもない速度で飛んできた。

「ごふっ」

光乃芯が宙を舞った。

「そこに座れ、この馬鹿兄弟が!」

清成が怒る。

「二人は無理ですよ、清成様」

白目を向けて横たわっていた光乃芯を吹雪が介抱する。

「だって、兄上様が…」

「だって、ではない!」

「そうです響鳴!あれだけ外で激しい運動をしてはいけないと、言ったではないですか!」

吹雪が一喝する。

「うう」

「泣くな!」

…吹雪の説教は数時間に及んだ。

その夜・・・

「母上」

響鳴の声が吹雪の寝室に響く

「どうしたのですか響鳴」

母が聞く

「失礼します」

響鳴は吹雪の寝室に入り、近くまで寄る。

「何か迷いごとでも?」

吹雪がそう聞く

「いえ、無いです」

「では、どうしたのですか」

「ええ、母上に…」

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・・・・・・・・・・・

「ふぅ、間に合ったわ」

清成はそう言い便所から出てきた。

「まったく、何であの二人は悪戯好きなんだかのぅ、そもそも…」

その時だった!

グシャ!!!!!

夜の静寂を破る鈍い音が聞こえた。

「何事だ!?この音は、吹雪の部屋からか!?」

清成は驚き、急いで吹雪の所へ駆ける…。

「…どうして?」

黒い影らしき数本の刃に体を刺された吹雪が響鳴に問う

「何故?母上が兄上しか見てないからだ」

響鳴はそう言う

「そ、それは…がはぁぁ、はぁ、はぁ、ち、違います」

「違う?何が?何が違うんだよ母上」

響鳴はさらに数本の刃を母に突き刺す。

「あがぁ…」

吹雪が苦しむ

「今更、違うって言っても無駄だよ、無駄!」

そして最後の一本が、無残にも吹雪の命を奪った。

「吹雪!!」

清成が到着したときには、すでに吹雪の姿とは思えないほど無残に切り刻まれていた。

目を下ろすと自らの息子が、自分の最も愛すべき人が死ぬ姿を見て、喜び勇んでいた。

清成は今までに無い怒りを覚え、自らの息子をズタズタにし、半殺し状態で鎌倉山の奥に幽閉した。

翌朝、光乃芯は生まれて初めて、人の死に触れ、狂うように泣いた。

その夜、葬式に参列していた天月は、光乃芯に連れられ、共鳴がいない事を清成に聞きに部屋に入った。

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「父上!響鳴が居ないんですが、どうかしたのですか!?」

光乃芯と、天月が入ると、清成は泣いていた。

「・・・・・、光乃芯と、天月殿には、伝えねばならないことがある・・・こちらに来なさい」

清成は涙を拭って、横へ来るように言った。

「どうかしたのですか?」

「申し訳ない」

清成はそう言うと、光乃芯と、天月の頭を手のひらで締め上げた。

「何をするんですか!父上」

「おじさま、痛いです!」

光乃芯と、天月はあまりの痛みに、悶え、暴れ始める。

「すまぬ」

清成はそう言うと、術を開放した。

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ」

その晩、光乃芯と、天月の激しい喘ぎ声が空へと響いた・・・。

次の日になると、光乃芯と、天月は次第に日々の生活へと戻り始めていた。

「光乃芯様、そちらへ行きました!」

「え?あ、うん」

だが、光乃芯は母親を失った悲しみから、なかなか抜け出せずに居た・・・。

「本当に良かったのだろうか・・・」

潤んだ目で、清成が二人を見つめる。

「解りません、私にも…」

横には観琴が居た。

「すまぬな、天月殿にも術をかけてしまって・・・」

「いいえ、仕方がないです。天月が覚えていては、すぐに解ってしまいますから・・・」

「いずれは、話さねばならない時が来るが、今はこの方が幸せかも知れぬ・・・」

清成はそう言って、鎌倉山を見た・・・。

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時は流れ、幾つもの出会いと、別れに遭遇した光乃芯は十八になっていた。

この年齢になったときから、光乃芯は類まれなる力を発揮し始め、まさに、清明の生まれ変わりだと言われていた。

しかし、一方の光乃芯といえば

「なんで俺が、あの清明様の生まれ変わりなのだ?清明様より、陰陽道の力は弱いはずだし、そんなに力は無いと思うがな」

光乃芯は、数々の行幸をたてながらも、周りからの噂には、耳にたこが出来るほど聞いているので、心身ともに呆れていた。

「まあ、そう言いなさなるな」

顔を出したのは、光乃芯の友人である薪乃宇美 虎子郎(まきのうみ こじろう)だった。

「何だ居たのか、虎子郎」

「居たのとは失礼ですな、まあ、良いですが。あなたは、この都では皆に好かれております。しかも、天性の陰陽道の力をお持ちでなさる。何上そのような事を思いで?」

虎子郎はあくまでも、光乃芯の部下という身分なので、親密な仲と言えども、なるべく丁寧な言葉で言う。

「ああ、俺はどう考えても、清明様にはかなわぬと思ってな、容姿も、陰陽道の力もな」

光乃芯がそう言って、桜を見る。

光乃芯の前に広がる広い庭に、ずっしりと構えたその桜は、光乃芯が生まれる前の遥か昔からあった。

光乃芯の成長を優しく見守っていたその桜の姿は、太い幹を生やし、しっかりと地中に根付いていた…。

「そうですか…。あなた様がそう思うなら、そうなのかもしれませんな」

二人は、その大きく綺麗な桜を見て目を細めた。

「さて、話もこの位としよう、天月に会いに行かねば」

「ええ、そうですね」

光乃芯と虎子郎は屋敷を歩き、天月に会いに行く準備をする。

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「光乃芯様、大変です、物の怪が屋敷に押し寄せました!ば、場所は庭です」

一人の部下が、慌てて光乃芯の元に来る。

「分かった。今行く」

光乃芯はそう言って屋敷の庭へと向かう

「光乃芯様、物の怪が押し入ったと聞きましたが!?」

虎子郎は、真ん中にひし形の穴が開いた幅広く長い剣を持って光乃芯と合流した。

「ああ」

光乃芯と虎子郎は、庭へと付く。

そこには、体長四メートルある大きい、犬の物の怪がいた。

「お前が、光乃芯か?」

物の怪が尋ねる。

「いかにも、それがどうした?」

光乃芯が前へ出る。

「お頭の、敵取ったり!!!」

物の怪はそう言うと、いきなり手に持っていた大きい刀を振り下ろす。

「光乃芯様!!」

虎子郎以外の部下は全員驚く、しかし・・・

「パシッ!」

振り下ろした刀は光乃芯の指で止まっていた。

「何!?」

物の怪は驚く

「何か訳がありそうだな、話そうか?」

光乃芯がそう言うと

「無理だな」

と物の怪はそう言って、話し合いを拒否し、物の怪は刀を持ち上げようとする。

しかし、刀が持ち上がらない

「もう一回聞こう、ここで話しをするか?それとも、成仏させてやろうか?」

光乃芯は、物の怪を見る。

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(な、何だこいつ?俺が振り下ろした刀を指二本で止めやがった、し、しかも、刀が微動だにしない…)

物の怪は、しばらくその状況で悩んだ末

「分かった、話そう」

物の怪はそう言って、刀を握っていた力を緩めた。すると光乃芯はその刀から指を離す。物の怪は刀をしまいそこに座った。

「我が主の名は、力竜(りょくりゅう)だ。そして、その主の元で働いていたのが、この俺、藤臣円(ふじおみまる)」

物の怪は自分の名を名乗った。

「それで?」

光乃芯は聞く

「力竜の旦那は、この前誰かに殺された。しかも、背中に翼が生えていると聞いた。だから襲った」

そう光乃芯の背中には、吹雪譲りの綺麗で大きい白い翼が生えていた。

光乃芯はこのために、自分が清明と似てないと豪語するのだ。

「いや、覚えが無い」

光乃芯は物の怪にそう言った。

「そうか、じゃあ、仕方が無い!!」

物の怪はそう言うと、鞘に収めた刀を再び手に持ち、光乃芯に振り下ろす!

光乃芯はそれを見て

「お望み通り、成仏させてやる!」

そう言って、光乃芯はその刀をひらりとかわし

「木剋・土剋・水剋・火剋・金剋木(木は土を剋し、土は水を剋し、水は火を剋し、火は金を剋し、金は木を剋す)陰陽魔術五芒星発動!」

光乃芯は指で物の怪に向かって、指で五芒星を書く。

光乃芯の前に青く光る五芒星が空中に出現した。

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光乃芯は指で、五つの天が結ばる様に円を書き

「天!!」

光乃芯がそう言うと、五芒星は大きく広がり物の怪を縛り上げる。

「ぎゃぁあああーーー」

物の怪の悲痛な叫び声が聞こえる。

光乃芯は物の怪に近寄り

「話し合えば解りあえたものを・・・封!」

と言って、術を掛ける。

すると、赤い光を放ち、五芒星と物の怪が消滅する。

消滅した跡に札が落ちていた。そこには、犬の物の怪の絵が描かれていた。

「よし、封印完了」

光乃芯はそう言って、その札を袖に入れる。

「ご苦労様でした。光乃芯様」

虎子郎が光乃芯にそう言い、竹で作った水筒を渡す。

「おお、すまぬ」

光乃芯はそれを受け取るとそれを飲んだ。

「ふぅー、美味い水だ。ありがとう虎子郎」

「いえ、お気になさらず、それでは行きますか」

虎子郎と光乃芯は、屋敷を後にする。

…その頃、鎌倉の都の海側に位置する屋敷では…。

「綺麗ですね、天月様」

一人の女房が桜を見て声を掛ける。

「ええ、そうですね」

それを聞いて、微笑む少女がいた。

その部屋の奥から顔を出したのは、天月であった。

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黒い艶やかな髪、透き通るような黒くクルリとした瞳と、薄紅色の唇、そして何より目に付くのが、汚れることを知らないような、純白の美しい両翼だ。

とても美しく育った天月は、まさに、天の使いといった感じで、人の心身を癒す力を授かっていた。

そのため、天月は力を発揮し始めた時から幕府に守られていた。

そのおかげで、気枯れ無く屋敷外を駆け回ったりして、心豊かに育ってきた。そのためか、美しい外見と同じく、心も美しく育った…。

「桜は何時見ても美しいです」

天月は言う、すると、一人の女房が部屋に入ってきて言う

「天月様、光乃芯様が見えるそうです」

女房からその人の名を聞くと

「光乃芯様が、いらっしゃるのですね、分かりました」

天月は嬉しそうに頷く

「あらあら、天月様、嬉しそうですね」

女房が天月に言う

「ええ、久しぶりに光乃芯様と会えるのですもの、本当に嬉しいです」

天月はそう言って、微笑み、綺麗な桜を見上げる…。

・・・光乃芯と天月は、思春期に入ると互いを意識し始め、時折、恥ずかしさを隠す為に喧嘩をしていた。

しかし、すぐに仲直りをし、またいつもと同じ様に仲良く遊んでいた。

ところが清成が老い始め、力が弱り始めた為に、光乃芯が鎌倉の物の怪退治を仰せ遣われてからは、互いの本当の気持ちを伝える事もできず、光乃芯は自分に用意された鎌倉の中心部の屋敷に入り、なかなか会うことが出来なくなっていた。

そして、久しぶりに会いに来られる事になった光乃芯は、今日の機会を逃がさないようにと、天月に自分の気持ちを伝えることを決心していた…。

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そして、その光乃芯は町の行きつけの店で土産を買っていた。

「おー、これはこれは、光乃芯の旦那」

店の店主が顔をニコニコさせながら出てくる。

「おお、元気で何より、親仁さん、例の物出来ているかな?」

光乃芯がそう言うと

「おお、それなら出来上がっていますぞ」

そう言って、店主は棚の奥からそれを出した。店主が出してきた物は綺麗な箱であった。

「ただの箱か?」

光乃芯が笑いながらそう言うと

「旦那、そりゃあ無いですよ」

と、店主はそう言うと箱を開ける。

そこには、綺麗な羽根を型取った上に、桜が一輪咲いたかのような、桜の木で出来た簪があった。

「おお、これは素晴らしい」

光乃芯は、汚さぬよう、手を布で覆いそれを取り、その美しさに惚れていた。

「光乃芯様、そろそろ出発しますよ」

虎子郎から声がかかる。

「ああ、分かった」

光乃芯はそう言うと簪をしまい、懐から大量に銭を出し、店主に渡す。

「こ、こんなに頂けません!」

店主は、あまりの大金に驚く

「いや、本当に歴史的価値が付く位良い物だ」

光乃芯はそう言った。

「旦那がそう言うんだったら貰っておきます。ですが、その代わりこの剣を無償でお受け取りください」

そう言って、店主が渡した剣は、長さ、約60cm位の短刀であった。

その剣を渡され、握った瞬間、鎌倉の風景が上空から手に取る様に見えた。

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そして、その剣には、鍔の側の刃に光乃芯の守護印である陰陽の印に、綺麗な白い翼が生えた新しい守護印が埋まっていた。

「これは?」

光乃芯が聞くと店主は

「はい、この前、旦那が愛用していた白い大鷹の式が敗れた時に、落ちていた両目と嘴を私に下さったでしょう『珍しい物だからやる』と言って」

…光乃芯は以前、物の怪と退治した際に愛用の大鷹の式を使用し、応戦した。

しかし、大鷹は相手の砲撃を頭部に喰らって絶命した。

その際に落ちていた両目と嘴を、ここの店主に珍しいからと言って譲っていた。

「ああ、そういえばそうだったな」

光乃芯が頷くと

「その、両目と嘴を術と鍛錬で、一体化させて作った物なんですその剣は」

店主はニコニコしながらそう言った。

「ほーう、これまた凄い物を作って貰えたものだ。これは、礼をしなけれねば」

「いえいえ、それは私からの贈り物です。ですから、お礼は一銭も頂きません」

店主がそう言うと

「そうか、それは残念、しかし、本当に良い物だ」

光乃芯は目をキラキラさせながらそう言った。

光乃芯は早速それを腰に収めて店を出る。

「お気を付けてー」

店主はそう言って見送った。

そして光乃芯は天月が待つ屋敷へと向かった…。

「開けろ!光乃芯様がいらしゃったぞー」

上の見張りの門番がそう言うと、重い音が鳴りドアが開く

「いらっしゃいませ、光乃芯様」

門番が門の横に縦になって並び礼をする。

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「お辞儀はせんでくれ、自分はあまり好かないのだ、こういう堅苦しいのは、だから、今度からは、『こんにちは』程度で良い」

「はぁ〜、しかし、源様からそう仰せ遣わされておりますし」

門番が困ったように言う

「まあ、自分が何とかしよう、それより、天月の所に案内してくれ」

「はい、承知しました」

光乃芯は、心が高ぶるのを押さえ、天月の元へと向かった。

「お久しぶりです、光乃芯様」

部屋から出て来て、そこに天月が正座で座った。

「おお、久しぶりだな、どうだ?術の鍛錬は怠ってないか?」

光乃芯が天月にそう聞く

「ええ、術の鍛錬は怠っておりません」

天月が笑顔でそう答える。

「そうか、それなら良い。それでだな、これが俺からの贈り物だ」

光乃芯はそう言って、一つの桜の木で出来た箱を渡す。

「これは?」

「まあ、開けて見ると良い」

光乃芯がそう言うと、天月は頭を傾げて蓋を開ける。

「まあ、これは」

天月は目を輝かせる。そこには、先程、光乃芯が特注で注文した簪があった。

「綺麗ですね!付けても良いですか?」

「ああ、もちろん、そのために買ってきたのだから」

光乃芯がそう言うと、天月が髪に付けようとする。

しかし、これがなかなか付かない・・・

「どれ、自分が付けてあげよう、背中をこちらに向けて」

「あ、は、はい」

天月が慌てて、光乃芯に背中を向ける。

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「ほら、付いたぞ」

光乃芯が笑顔で言う

「ど、どうですか似合いますか」

天月は恥ずかしそうに聞く

「ああ、とても綺麗だ」

光乃芯が微笑んで天月を見る。

「は、恥ずかしいですから、あ、あまり見つめないで下さい」

天月はそう言って顔をサッと隠す。

「可愛いなー、天月は」

「い、いえ、そんな事ありません!!」

天月はそう言って、光乃芯に背を向ける。光乃芯は言われても尚、天月の美しい姿に見惚れていた…。

「それでは、術の成長度を見させてもらおうか」

そう言われ、光乃芯と天月は草原に来ていた。

「はい、分かりました」

天月はそう言うと、術を唱え始める。

「我、天月の名において、術を開放し、制限された場の植物の成長促進を施す」

天月は精神を高める。

「成長促進術開放!」

天月がそう言うと、指定された場所に五芒星が浮かび、その草原に生きるすべての草花木が一定の成長期まで育ち、術が集束する。

さっきまで、まっさらな草原だったのが、草花木が成長したおかげで綺麗な野畑となっていた。

しかも、まだ術は一部の花や木に宿っていた。

そして、天月が光乃芯に寄り添うと、術が開放し花がゆっくりと咲き始める。

「綺麗だな、そなたの術は美しくなった」

光乃芯は、目を細めて言う・・・

「はい、これで光乃芯様のお役に立てればと」

天月は光乃芯の手を握る。

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「いや、お前は人を癒すための術を、ずっと使って欲しい、そして、これからは俺の側に居て、俺に一番の笑顔という名の癒しを見せ続けてくれないか」

光乃芯は前を真っ直ぐ見つめて言う

「はい、これからはあなたの側にずっと居させてください、光乃芯様」

これからも変わるで無いであろう青空の下、桜や、春の花が舞い散る中で、二人は生涯、互いを愛する事を誓った…。

翌日、光乃芯と天月の婚約の祝賀際が挙げられた。

「しかし、こういうのも悪くは無いな、みんなの笑顔が見られて嬉しい」

光乃芯がそう言う

「ええ、そうですね、皆、楽しそうにお祭りを楽しんでいます」

天月は笑顔で答え、光乃芯と天月は高台から庶民に手を振る。

「ふむ、しかし此処の宮と大通りの桜は咲くのが遅いみたいだな、ふむ…、ならば」

光乃芯はそう言うと

「封」

光乃芯がそう言うと、宮と大通り周辺の、桜の木の上に五芒星が浮かぶ

「解」

光乃芯が指を上から下に降ろすと、五芒星も下にゆっくり降り始める。

降り終ると成長速度が速まり桜が咲いた。

そして、その状態になると成長速度が遅くなった。

「ふむ、綺麗だ…ん?」

光乃芯は桜から一人の男に目をやる。

その瞬間背筋が凍った・・・、その者は自分と同じ顔を持った男であった。

「綺麗ですね、本当に桜は」

天月は咲いた花を見つめそう言う、天月に横から声を掛けられ顔を移した。

「ああ」

次に目を移した時には、男はすでに居なかった。

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(見間違えであろうか?)

光乃芯は不思議に思いながらも宴を楽しんだ…。

その晩、民衆が寝ている町外れの一角の穴から光が漏れていた…。

ゴウン・・・ゴウン…

大きい、機械の音がなるその闇の中には、大きな建物があった。

「麻相模様、計画は予定通りです」

部下に呼ばれ、男は顔を出す。

「ふむ、ありがとう、下がって良いよ」

「はっ!!」

部下がそう言われて下がる。

「いよいよ、あなたに仕打ちをする時が近づいてきましたね、兄上!あなたが光ならば、私は闇ですね、フフ、フッハッハッハ」

男は甲高く笑う、そこに居たのは、黒い翼が生えた赤い玉のマークが大きく飾られた長い服を着た光乃芯の瓜二つの顔を持つ男、麻相模 郷鳴(まさがみ きょうめい)が立っていた。しかし、光乃芯とは明らかに違う容姿であった。

確かに顔はそっくりだが、人で言う白目は赤く、そして黒目は銀色をしいた。

そして、明きらかに違う物があった。それは、背中にある大きな黒い翼だ。

光乃芯や、天月が『天の使い』と言うならば、この者は、『悪の使い』といった感じであろう、そして、郷鳴の前には、木と鉄で出来た大きな箱が在った。そこには物の怪達の血が大量に入っている。

その箱からは、太い管が出ていて、その管は一つの大きい装置につながって、その装置からは細い管が出ていた。その管は郷鳴の背中の金属部分に繋がれていた。

「クックック、こうして物の怪の血を体内に取り込むことによって、膨大な力を手に入れられると思ったが、それ以上に良い」

そう、郷鳴はこの装置によって、物の怪の血を凝縮し、体内に取り込んでいるのだ。

この装置は光乃芯に対抗するために、物の怪の力と能力、体力を凝縮した物を自分に取り込めるよう郷鳴が作りあげた。

-22ページ-

「後もう少しだ、それまでに誰かを、こちら側に付かせなければ」

郷鳴は、ある男に目を付けた。

「うむ、あの男が良いな…」

共鳴が目を付けたのは、光乃芯の側にいつも居る虎子郎であった。

忠誠心が高い男だからこそ、操って光乃芯を攻撃させれば、光乃芯に精神的傷が付くだろうと考えた。

そこで、郷鳴はある部下に虎子郎を連れ去る事を命じ、虎子郎を陰陽魔術と暗示によって、光乃芯を攻撃するように仕込む事を考えた。

数時間が経ち、郷鳴の部下が虎子郎を連れ去って戻ってきた。

もちろん当の本人は気付いていない、郷鳴は逆五芒星の上にそっと虎子郎を寝かせる。すると、郷鳴は陰陽魔術の呪文を唱え始める。

「前者の魂を消滅させ、我が僕と化す者を此処に召喚させる、特定の音がなった時、特定の人物を傷付けさせる」

郷鳴がそう言うと、どす黒い煙のような物が、虎子郎に入り、白い煙が出てきて消えた。

「結」

共鳴がそう言って儀式は終了した。

「よし、元に戻して来い、くれぐれも慎重にな」

郷鳴がそう言うと部下は、虎子郎を元に戻すため外に出て行った。

「さて、明日の騒ぎ事が楽しみだ」

そうして、鎌倉の深い闇の中、共鳴の薄気味悪い笑い声が聞こえていた…。

早朝、光乃芯は朝も早くから弓の練習をしていた。

「おはようございます、光乃芯様」

後ろから、虎子郎の声が聞こえてきた。

「おはよ…?」

挨拶をしかけて、光乃芯は虎子郎の目を見る。

(おかしい、虎子郎の目が鈍っている)

光乃芯には虎子郎の目が、薄らっと濁っているように見えた。

-23ページ-

「どうかしたか」

光乃芯がそう言うと

「いえ、何もありません。私は失礼します」

虎子郎がそう言うと

「まあ、待て矢を一本射って見せてくれないか」

光乃芯がそういうと、渋々、虎子郎は壇に立つ、虎子郎が的を見つめ矢を放つ、すると、矢は的から大きく外れた。

「ほー珍しいな、お前が外すなんて」

光乃芯がそう言うと

「誰でも、失敗はあります。それでは、本当に失礼させて頂きます」

虎子郎はそう言うと、自分の仕事部屋へと向かった。

(なにか、良からぬ事がありそうだ。警戒しなければならぬな)

光乃芯が警戒をすると共に、時間が経ち鎌倉の町が眠りから目を覚ます。

「さて、そろそろ飯の時間か、部屋に戻らねば」

幸助はそう言って、自分の部屋へと戻る。

日が出始めると光乃芯の前には、武士が食べる物を中心としたバランスの良い食事が出てきた。

「おはようございます、光乃芯様」

天月が部屋に入ってくる。

「ああ、おはよう天月」

光乃芯は元気よく挨拶を交わす。

光乃芯は自分の屋敷に戻ってきていた。

そして、何故、天月が光乃芯の屋敷に居るかというと、光乃芯は、一昨日に交わした誓いの日に、鎌倉幕府にて天月との結婚を容認してもらうために役所に行っていた。

その日のうちに、鎌倉幕府征夷大将軍直令で許しが出たのだ。

これによって、天月の護衛や世話人も光乃芯の屋敷に移動してきたのだ…。

光乃芯は焼き魚を食べ、玄米を口に運ぶ

「うむ、美味い」

光乃芯が食べる物は、貴族にしては珍しく、武士が食べる物を中心としたバランスの良い食事であった。

-24ページ-

光乃芯が言うには

『陰陽を精通しているものであろうとも、豪華な物を食べる訳にはいかない。第一貴族のような食べ物には興味が無い。それに、貴族のような偏った食事をするのは身体に良くない』

といって、昔からそういうものを口にはしてはいなかった。

もちろん、妻である天月や、友人の虎子郎、屋敷の者達も、元々、そういう食事を好まぬものが多かった。

「やはり、飯は武士が食べるものに限る。身体には良いし、体力もつく」

光乃芯は頷きながら箸をすすめる。

「ええ、本当においしいものです」

それに続き、天月はにこやかに笑い箸をすすめていく…。

「ごちそうさま!!」

「ごちそうさまでした」

光乃芯の元気な声と、天月の優しい声がし、朝飯が終わる。

「光乃芯様、そろそろ見回りをする時間です」

虎子郎が光乃芯の下に来る。

「光乃芯様、虎子郎様から出ておられるあの変な黒い空気はなんでしょうか?」

天月が虎子郎に聞こえぬようそう聞く

「すまぬが、もう少し待っていてくれ」

光乃芯がそういうと

「はい、分かりました。正門でお待ちしております」

虎子郎はそういうと、正門のほうへと行った。

光乃芯は戸を閉め、天月の目の前に深刻な顔で座る。

「どうかなされたのですか?」

光乃芯が重い口を開く

「ああ、多分ではあるが、虎子郎が死んだ」

「そんな!ふぅぐぅ!?」

天月が大きい声を出したので、虎子郎が慌てて口を塞ぐ

「静かにな」

光乃芯が手を離すと

「いま、話されていたのは虎子郎様本人だったはずですよね?」

天月の言う通り、現に先ほど話を交わしていたのは虎子郎本人その者であった。

-25ページ-

「ああ、確かに声も、肉体もそうだが、しかし、魂が無い」

「…!?」

天月が無言で驚く

「朝から様子がおかしかったから、あいつに気付かれぬよう、陰陽道を使い調べてみたのだが、あいつ自身の魂が肉体から消されている。そして、肉体に何者かによって作られた魂を入れられている」

光乃芯が頭を抱えて言う

「そんな」

天月がそれを聞いて、泣き崩れる。

「くそが、俺が気付かなかったためにこんな事に・・・」

光乃芯は下を向く

「し、しかし、陰陽道を使って虎子郎様の魂をもう一度戻せば…」

「だめだ!!それはけしってやってはならぬ!!!」

光乃芯が怒って言う、普段はそんなに怒らぬ光乃芯が怒った。

「申し訳ありません」

天月が深く詫びる。

「死に人を蘇らすのは、自分の命を削るし、周りを巻き込む可能性もある。現に私の弟子が、私の目の前でそうなった。見るも無残な姿となって死んだよ」

光乃芯は目を細める。

「では、どうなさるおつもりですか」

天月が聞く

「ああ、しばらく様子を見よう、それに、影で誰が何の目的で、こういう事をしているかも知りたい」

「はい、わかりました」

「それとだな、しばらく気を抜かぬほうが良い、どこかで必ず攻撃してくるはずだ」

光乃芯は天月にそういうと

「ああ、あと、しばらくの間、天月にも一緒に着いて来てくれないか?もしも、虎子郎が暴走し、町のものを傷付けたら、私には手におえない。そうすると天月の能力が必要になる」

光乃芯は天月に頼んだ。

-26ページ-

「はい、わかりました。それで、光乃芯様のお力になれるなら」

天月はにこりと微笑んで返事をした。

いくら光乃芯でも、天月には勝てないものがあった。

それが、人一倍ずば抜けている天月の癒しの力(治癒能力)である。

光乃芯は元々陰陽道の使いとしてバランスの取れた力を有している。

一方の天月は、陰陽道の力の大半が、癒しの力となっている。

下手したら、死者さえ蘇らせるかもしれないほどの力を有しているのだ…。

朝食が終わり、光乃芯と天月は虎子郎が待つ正門へと向かう

「虎子郎様は本当に死んでしまったのでしょうか?」

天月が疑問になっていた事を、光乃芯にぶつける。

「うむ、正直言って、わからんのだ。もしかしたら、この都のどこかで留まっているかもしれん。あるいは、陰陽道を使い、後の世に転生したかもしれぬ」

光乃芯は自分の推測を天月に話すと

「まだ、彷徨っている可能性もあるという事ですよね」

天月がそう言った横顔を見て、光乃芯には、天月が少し元気を取り戻したように見えた。正門に着くと虎子郎が待っていた。

「お待ちしておりました。?今日は天月様もご一緒ですか」

虎子郎がそういうと

「ああ、町の見学を含め、私達がどういう事をやって周っているかを見たいらしいんだ。これからは、毎回一緒に来てもらうことになる」

光乃芯がそういうと、虎子郎は頷き

「分かりました、それでは参りましょうか」

「ああ、ちょっと待て、えーと」

「?」

光乃芯は自分の懐をさぐる。

「あった、ほれ、虎子郎に新しい守護武器だ」

そう言って、光乃芯が取り出したものは銀で出来た首飾りであった。

-27ページ-

虎子郎はそれを受け取ると

「ありがとうございます。大事に使わせて頂きます」

そういって、虎子郎は首飾りを付けた。

「では行きましょう」

「ああ」

虎子郎が先に一歩足を運ぶのを確認した天月は、光乃芯の耳元でそっと言う

「光乃芯様、あの銀の首飾りは一体?」

天月が不思議そうに聞く

「ああ、俺が作った抑制装置みたいなものだ。もし、虎子郎が暴走したら、俺の霊力で鎮めることが出来る」

光乃芯がそういうと天月は成る程と頷いた…。

「おはようございます。光乃芯様」

光乃芯が町を歩くと民衆は、挨拶をする。それに対して

「ああ、おはよう」

光乃芯は微笑んで挨拶を交わす。

「あ、今日は天月様もご一緒なのですね、おはようございます」

一人の少年がその事に気が付く

「ええ、今日からは、私も一緒なの宜しくね」

天月は笑顔で答えた。しばらく歩いていると、一人の男が血だらけで倒れていた。

「平気か!?」

光乃芯が駆け寄る。

「こ、光乃芯様…」

男は光乃芯の姿に気が付く

「どうしたんだ!このひどい傷は?」

光乃芯が男に聞く

「も、物の怪に襲われて、こ、子供がさらわれて…」

その先を言いかけて、男は気絶した。

「天月、頼む」

光乃芯に言われ、天月が男の上に手をかざす。

-28ページ-

「我、天月の名において術を開放し、この者の自然治癒能力を促進し、傷を完治させる」天月がそういうと、ポゥと淡い緑の光が天月と、負傷した部位の間に灯る。

光に包まれた患部は次第に治り始め完治した。

「しばらく此処に寝かせとくしかないようだな」

光乃芯は天月を離れさせ、さらなる治療系の陰陽道を使う

「解」

光乃芯がそういうと、男の周りに青い光がさまよい始める。

「陣」

さらにそういうと、男を囲うように球の骨格が出来る。

「結」

骨格から青い膜が出来始め男を囲む。

「治」

光乃芯が最後にそういうと、青い膜からは淡い緑の放射を男に向け放ち、ゆっくりと治療していく。

「これで平気だろう、さて、この者の子供を助けに行くぞ」

「しかし、物の怪の場所が把握できなければ、意味がありません」

虎子郎がそういう

「まあ、任せろ」

光乃芯はそういうと、あの剣を握り、目を瞑る。

すると、上空から自分たちの姿見えた。

その場から半径一里ほどを捜索する。

すると、一頭の物の怪が子供を乗せ逃げている姿が見えた。

「…うむ、南西だ、しかも堂々と大通りを通って逃げている。急ぐぞ」

光乃芯がそういうと、天月と虎子郎も急いで向かう。

-29ページ-

その頃、大通りは一頭の物の怪が暴れまわっていた。

その破壊力は絶大で、その拳で、一軒の家屋を簡単に潰してしまうほどであった。

「放て!!」

幕府の兵が矢を放つものの、強靭な肉体には一本も刺さらない・・・

「くっそ!」

幕府の者が諦めかけたその時!

「ズドーーン」

一つの強力な閃光が物の怪に落ちる。

「ぐぉ!?」

物の怪がバランスを崩し、子供を落としてしまう。

その子供を一つの光が取り、離れた場所に下ろす。

その光の正体は天月だった…。

あまりにも遠かったため、間に合わないと判断した光乃芯は、虎子郎に負傷者の下で、待つ様に命じ、同じ翼がある天月と高速移動し此処まで来たのだ…。

翼での高速移動の原理は、自分の体内にある魔力や、陰陽道の力を翼と足だけに回し、力を最大限にすることによって可能となる。

…そして、もう一つの光が天月の側へと来た。

先程落ちた強力な光は光乃芯であった。

「さて、聞こうか。お前が行くのはあの世か、それとも、俺の式神となり俺に遣うか」

光乃芯がバランスを崩している白い虎の物の怪に問う。

物の怪は光乃芯から放たれる膨大な力を感じ取り

「死ぬより、お前の遣いとなった方が良いらしいな」

と言って、物の怪はその場に静かに座った。

「うむ、話が解る物の怪は助かるよ、無駄な争いもせずに済むしな」

光乃芯はそう言うと、五芒星が描かれた一枚の札を物の怪の頭の上に投げる。

-30ページ-

すると札はその場で停止する。

「解」

光乃芯がそう言うと描かれていた五芒星が、黄金色の光を放ち、ドーム上に五芒星を張る。

「そなたは、我、汝の名に従い、我の式となり、我にその身を捧げる事に従うか?そして、契約を破りしその時は、その身が滅ぶ事に異議を唱えぬか?さあ、答えよ我の名の下に!」

光乃芯が物の怪にそういうと

「承知した」

と、物の怪がそう言うと

「物の怪の契約により、この者を我、汝の名において汝の式とする」

光乃芯がそういうと、黄金色の光を放っていた五芒星のドームが、物の怪の額の中心へと集まる。

「結」

光乃芯がそう唱えると、光は集束し、物の怪の額の中心に五芒星を模った。

その瞬間、物の怪は光に包まれ、札へと吸収された。

パサ…

落ちた札の上部中心には黄金色の五芒星のマーク、そして札全体に白い虎のマークが描かれていた。

そして、今度は光乃芯がその札を宙へと投げる。

「召喚!」

すると、黄金色の光を放ち始め、白い虎が出現する。

しかし、先程まで、式でなかった虎には、付いていなかった翼が付いている。

「これは?」

白い虎が光乃芯へと聞く。

「ああ、その翼は俺が式へと変えた者に全部付いている。形はそれぞれ違うがな、俺が意識して付ける訳でなく、俺の陰陽の力が影響しているみたいだ」

光乃芯がそう言うと

「ほー、それは面白い、それで、この翼を飛ぶ事が出来るのか?」

白い虎がそう聞く

「ああ、飛べる。でなくては、付いている意味が無いだろう?まあ、飛んでみろ」

光乃芯がそう言うと、白い虎は慣れない翼さばきで、宙に浮いた。

「凄い!」

そう言って、しばらく白い虎は飛んでいた…。

-31ページ-

「だいたいの感覚は解った」

白い虎はそう言うと、光乃芯の前に跪き

「これからは、よろしくお願いします。光乃芯様」

白い虎はそう言った。

「おう、これからも宜しくな、では、元に戻す」

光乃芯はそう言うと

「帰還」

光乃芯がそう言うと、白い虎は黄金色の光を放ち、札へと戻った。

光乃芯はその札を腰の袋にしまい、光乃芯は、天月と子供を連れ、親の元へと向かう。

光乃芯達が来た時にはすでに男は回復しており、結界の中で元気そうにしていた。

「お待ちしておりました」

虎子郎がそう言って、光乃芯達を迎えた。

「ああ、待たせたな。除」

光乃芯がそう言うと、結界は姿を消した…。

「本当にありがとうございました」

男とその子供がお辞儀をして

「ああ、気を付けて帰るんだぞ、と、それと…」

光乃芯はそう言い、先程の札を取り出す。

「?」

光乃芯が言ったことに男は頭を傾げる。そして、光乃芯はその札を宙へと投げる。

「召喚!」

すると、黄金色の光を放ち始め、白い虎が出現する。

「き、貴様は!!何で、光乃芯様は式にしたんですか!!」

男が怒る。

「まあ、話を聞いてやってくれないか」

虎は男に土下座をする。

「本当に申し訳なかった!我が息子が、今朝死んでしまって、錯乱状態になり、暴れ回っていたところに、あなた様が着て、その時、子供を見て、息子と重ねてしまったんだ・・・」

「だから、どうしたというのだ!どちらにせよ、子供をさらったではないか!」

「本当に申し訳ない!以後、光乃芯様の式として、世のため、人のために誠意を尽くす!だから、許してくれ!」

虎は深く詫びる。天月はそれを見て

「子を思う思いは、皆同じ・・・、どうか許して頂けませんでしょうか」

と、天月は言った。

「・・・解りました。天月様がそう言うのであらば・・・、ですが、しっかりと気持ちを改めて、善に尽くす事がきないのであれば、許しても意味がなくなりますよ?」

男がそう言ったのを聞いた光乃芯は

「ああ、それはこの俺が保障する。悪さを働けば、すぐに消滅してしまうからな」

「そうですか」

そう言って、親子はその場を後にし、光乃芯達は、その親子が見えなくなるまで見送った。

「帰還・・・さあ、帰るか」

光乃芯は式をしまい、天月と、虎子郎と共に場を後にし、一緒に屋敷へと戻っていった。

 

説明
いや〜、再編集&再構築するのが大変で、時間がかかってしまいました・・・。
幸助は事故後、どうなったか・・・
興味がある方は、お読みください。
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小説  陰陽師 魔法 弓道 鎌倉 安部清明 月夜 

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