艦隊 真・恋姫無双 139話目 《北郷 回想編 その4》
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【 表裏 の件 】

 

? 南方海域 海原上 にて ?

 

 

痛みが走る身体に鞭打ち、甲板に出て見れば、多くの艦娘達が傷付き、中には一隻で立つ事も出来ず、仲間の肩を借りて漸く戦闘ができる体勢を取る者が居た。

 

そんな艦娘達の姿を見て、一刀は改めて三本橋達が行った行動に、怒りを覚える。

 

だが、そんな一刀に、舳先から声を掛ける者が居た。

 

 

『提督……か? 良かった……無事のようだな』

 

『────ッ!?』

 

『提督……どうか、したか?』

 

『………長門………すまない! こんな任務に就けてしまったばかりに、お前や皆に……迷惑を掛けてしまった!』

 

 

長門は一刀の無事な姿を見て喜ぶが、一刀は長門が受けた被害の深刻さを一目で理解し、すぐに声を掛けれなかった。

 

そして、何時もなら……いの一番に一刀へ駆け付ける金剛の姿が、見受けられない。 誰が居ても憚らずに一刀が好きだと宣言し、何処に居ても子犬のように戯れる、あの彼女が。

 

よく考えれば、当然の事。

 

同じ戦艦である、金剛が被った損害の惨さも推し量り、思わず一刀の口より謝罪の言葉が漏れるのも、仕方がなかった。

 

だが、その言葉を聞いて長門の表情が一瞬だけ哀しげな顔になるが、次の瞬間、怒りの形相となり一刀を怒鳴りつけた。

 

 

『任務に難しい易しいなど無い! 一度命じられれば、達成を目指し行動するまでだ! そんな惰弱な精神で、私達を纏めあげれると思うのかっ!?』 

 

『─────!?』 

 

『それよりもだ、提督。 今は一刻も早く、この地を離脱をする事を勧める。 深海棲艦は退いたが、あくまで一旦だ。 次に行動を移されれば……勝機は、無い!』

 

 

それだけ言うと、長門は背を向けて去った。

 

普段と違う長門の態度に、ただただ唖然とする一刀だが、後ろから肩を叩かれ慌てて振り向く。 すると、振り向いた顔の頬に、スラリと伸びた人差し指が当たる。

 

驚いて注視すれば、金剛が人差し指を口に当て、《黙って》とのジェスチャーを行っている。 見れば、金剛もまた、装備の破損が目立ち、痛ましい姿になっていた。

 

そんな金剛が一刀の耳に口を近付け、小声で説明した。

 

 

『アレは……長門なりの提督を気遣かったAffectionate(優しさ)ネ。 だって……今の提督ぅ……』

 

『そうか……そんな酷い顔してたのか』

 

『Yes、とても……哀しそうな顔してたヨ。 それに、まだ此処は戦場、Don’t let your guard down yet!(まだ気を許しちゃ駄目ネ!)』

 

 

金剛より言われ、漸く戦いが継続している事を思い出した一刀は、自分の頬を両手で叩き気合いを入れ直す。

 

そして、艦隊を撤退させる命令を行う為、更に前へ進む。

 

艦隊の命令権は三本橋が持つが、この戦場で直に命令できるのは提督という階級を持つ一刀だけ。 

 

だから、一刀は大声を上げ撤退の指示を出した。

 

 

 

◆◇◆

 

【 離脱 の件 】

 

? 南方海域 海原上 にて ?

 

 

撤退は思いもよらず、スムーズに移行でき、列を組んで急ぎ南方海域を離れようとしていた。

 

 

三本橋の命令を無視し、一刀の呼び掛けで行う撤退が、こうも遅滞なく済んだ理由とは、大きく分けると三つ。

 

 

一つは、厭戦ムードが艦娘達に広まっていた事。

 

当然だが、練度の低い艦娘が難易度の高い海域に入れば、中破や大破など当たり前。 そうなれば、士気は下がるし命は惜しい。 厭戦の志向が高まるのも仕方が無い。

 

 

更に一つは、長門の一刀に取った態度。

 

練度の低い艦娘達が持つ、提督、司令官の心証は最悪に近い。 日常の扱いから、今回の任務で散々な目に遭わせられたのだから、信用度はかなり低い。

 

そんな時に、自分の提督に向かい、誰もが言えないが望んでいる撤退の進言。 更に、一刀を叱った事実も加わって喝采を浴び、殆どの艦娘が長門の命令に動くようになった。

 

 

最後に残った一つは大事だが、理由がハッキリとしない。

 

三本橋に属していた監視役の艦娘達が、何処にも見えないという事。 彼女達は、一刀を長門達に合流するまでは、確かに居たのに、あれから離れて姿を消しているのだ。

 

そのお陰で、邪魔をされずに撤退が出来たのだが、その行動は謎であり、不気味でもあった。

 

 

『Follow me! 皆さん、慌てず騒がず、旗艦に付いて来て下さいネー!!』

 

『『『『『 ────はいっ!!!』』』』』

 

 

金剛の号令により、艦隊が出発する。

 

先頭を長門、殿を金剛、左右を天龍、龍田と固め、真ん中を残った艦娘、そして……一刀を乗せた漁船を、雷と電が曳航するという、輪形陣で進んだ。

 

旗艦は通常ならば、長門なのだが………今回は一刀が乗る船が旗艦になる。 旗艦が普通以下のボロ船、しかも漁船という珍事に眉を潜める者も居たが、仕方が無い話であった。

 

 

順調に南方海域脱出する艦隊を、後ろより警護しつつ、金剛は先程の一刀を思い出し、少しだけ、ほんの少しだけ……ため息を吐いた。 

 

あの時、長門と漁船の護衛を交代して、他の艦娘達の具合を確認していた間に、一刀が漁船の中より現れたのを見た。

 

散々暴行されたと思われる、端正な顔へと浮かぶ青アザや打痕。 何時もなら清潔に保たれている白の軍服も、アッチコッチに擦った跡や靴底の跡が無惨にも残されていた。

 

 

『提督ぅ……本当に無茶ばかりするヨ。 幾ら私達が大事でも……You will be worn out (提督が壊れてしまうネ)……』

 

 

★☆★

 

漁船を見つけ、天龍達が乗り込んで少し経った時、電が慌てて、此方に向かってきた。

 

 

『長門さぁーん! 金剛さぁーん! 一刀さんが! 一刀さんがぁ!!』

 

『提督の事は分かっている! 見つかったのか!? 無事なのか!? 早く教えてくれっ!!』ガシッ!

 

『はわ、はわあああああああっ!?』ガクガクガクガク!!

 

『Oh、長門ぉ! Chill out! (落ち着きなサイ!)』

 

 

知らせに来た電の肩を両手で掴むと、高速で前後に揺らす長門に、急いで止めに走る金剛。 

 

そんなコントのようなやり取りがあった後、電はポツリポツリと話し出した。 普段通りに話せないのは、誰かさんの所業で酔って気持ちが悪い所為(せい)……らしい。

 

最初、電より一刀が目覚めた事を聞かされた時は、素直に長門と共に喜んだ。 提督が拉致され、ただ漁船に閉じ込められた、と思っていたからだ。

 

だが、電が泣きながら言うには、最初は人とは判別が出来なかったと。 

 

確かに、布を被っていたというのもあったが、身動きが全く出来ない程、拘束されていたからだ。 手足の拘束は勿論、猿轡や目隠しもされ、完全に身動きが出来ない状態で。 

 

しかも、身体中に無数の暴行された跡が残り、血や埃で惨く汚れていたらしい。

 

雷の応急処置で、今は何とかなっているが、出来れば早急に病院で精密検査を受けた方がいいと、言っていたそうだ。

 

また、これとは別に───

 

《 龍田さんの指摘がなければ、この船の中を雷達は慎重に捜していたわ。 もし、それで発見が遅れば……司令官の命に関わっていたかも─── 》

 

 

一刀の身体を診察した直後、雷が小さく呟くのを間近に居た電が聞きつけ、思わず背筋が寒くなったと、最後は泣きながら語っていた。

 

★☆★

 

 

金剛と長門は、その話を聞いたのち、ある決意を固める。

 

 

それは、自分達の提督である一刀を、無事に撤退させる為に───

 

 

 

◆◇◆

 

【 猟奇 の件 】

 

? 南方海域 拠点 会議室 にて ?

 

現在、女の子座りで床に座り込み三本橋の前に、南方棲戦姫と戦艦レ級の姿がある。 

 

そして、三本橋が待っていた援軍は、三十分経過しても………この部屋に来る事はなかった。 

 

 

『…………どうやら、ボクも……此処まで、かぁ………』

 

『『……………………』』

 

 

見捨てられたと感じた三本橋は、太太(ふてぶて)しい態度となり、南方棲戦姫を少しだけ睨み付けると、静かに目を閉じる。

 

────覚悟の死。

 

父である元帥から、軍人としての精神を仕込まれていたせいか、六名の提督達とは違い、三本橋は自分の死に対して騒ぐ愚かな真似をせず、素直に受ける気で居たのだ。

 

 

『………ホウ?』

 

『ふん、ボクだって軍人だよ。 最後くらい潔く……』

 

『私ハ……オ前ヲ……殺サナイデ……オク事モ……デキル。 役ニ……立テバ……ダケド……』

 

『───えっ?』

 

 

南方棲戦姫から発せられた言葉に、三本橋の覚悟が一瞬緩み、思わず出た声音に喜色が混じった。 

 

死を覚悟した者は、何に対しても物怖じせず、冷静に対処する事ができる。 得るモノがあっても、死んでしまえは自分の手より離れるから、総じて無欲となるからだ。

 

だが、もし……此処で生きれると希望を示せば、死を決意した覚悟を容易く引っくり返す事が可能。 余程の古強者でなければ跳ね返せない、魅惑の甘露なのだから。

 

 

『で、でも……助かる保障なんて───あ、あれ? 戦艦レ級は……?』

 

『アイツナラ………玩具ト……遊ンデイル……』

 

『玩……具?』

 

 

三本橋が必死になり、善悪の狭間で葛藤を続けていた最中、ふと気付いた怪物の不在。 だが、南方棲戦姫は三本橋の問いに遊んでいると、子供を扱うような言い方で説明した。 

 

では、戦艦レ級が遊ぶ、玩具……とは?

 

そこまで思考していた三本橋へ、当の戦艦レ級がニコニコと笑いながら入ってくる。 

 

同時に、戦艦レ級の尻尾が、何かを大量に咥えて引き摺(ず)りながら、部屋に持ち込んだ。

 

それは───

 

 

『………見テ、見テェ……戦利品……!!』

 

『─────ヒッ!?』

 

 

三本橋が退室を命じた提督達六名の?。 

 

五体満足の者は誰も居なく、手足の部分的破損は全員があった。 多分、わざと外して殺害したらしく、全員の顔に苦悶と恐怖の表情が張り付いている。 

 

中には、連れていた艦娘の艤装らしき物が、提督の身体に突き刺さり、今も血を滴らせながら無造作に置かれていた。

 

特に酷いのは、顔を半分切り取られ、その半分を別の誰かの顔に接着させていた事。 魔法とか技術ではなく、物理的に力任せで結合した状態で、だ。

 

その為、頭蓋骨の破損、及び器官の損傷が目立ち、とても口で示すのも、此処に記載するのも憚れる物になっている。

 

 

『少シ……加減ガ……足リナイガ……マア……合格……ダ』

 

『ヤッタァー!!』

 

 

そんな首を、南方棲戦姫は一つ手に取り、しげしげと眺めた後、合格を認めると、戦艦レ級が両手を上げて喜ぶ。

 

南方棲戦姫と戦艦レ級のやり取りが、普通の工作をした結果なら、実に微笑ましい一場面。 

 

だが、持つ物が生○で、死臭が漂う部屋内で、こんな行動を起こされれば、もうホラーでしかない。

 

一体、何が合格なんだと、南方棲戦姫に文句を言いたい三本橋だが、もし言えば……どこぞの提督の首と合わさるのが、目に見えていたので、静かに口を閉ざす。

 

そんな精神が折れる寸前の三本橋に、南方棲戦姫から最終通告が申し渡された。

 

 

『───サテ……人間……』

 

『アッハイ!!』

 

『貴様ハ………ドチラヲ………選ブ……?』

 

 

もう、既に心が折れまくっていた三本橋に、拒否する言葉は無い。 というか、死んでから、あんな顔になりたくない。 そんな一心だったのだ。

 

 

『わ、分かった! 分かったよっ!! ボク、降参する! 降参するから! こんな風にしないでぇ!!』

 

『納得シテ……貰イ……嬉シイワ』

 

『で、でも……ボク、に……何か……出来るの? 何をすればいい? あっ、でも………父上達に、迷惑掛けるのは………』

 

『簡単ナ……事ヨ……』

 

 

南方棲戦姫は三本橋に向かい、ある事を尋ねた。

 

それは三本橋にとっては何でも無い話だが、南方棲戦姫にとっては重要な情報。

 

 

『天ノ……御遣イ……ソノ者ノ情報ヲ……教エナサイ……』

 

 

 

◆◇◆

 

【 秘密 の件 】

 

? 南方海域 拠点 会議室 にて ?

 

 

三本橋は、その話を受けて思わず呆けた。

 

てっきり、大本営に関わる情報や艦娘の技術、戦力とかを把握するため、根掘り葉掘り聞かれると思っていたからだ。

 

 

『天の御遣い…………って、何で? あの話は、ある一部の国で熱狂的に信仰されている話だよ?』

 

『人間……イヤ……貴女ガ……言ッテイタノヨ? 英雄ト……並ベラレル存在……ダト……』

 

『え? えぇ………と……』

 

『人間ノ男ニ……言ッタ……ジャナイ?』

 

『……………………』

 

 

この一言で、三本橋は思い出す。

 

 

 

《────英雄、革命児、それから……》

 

《────天の御遣い、と》

 

 

 

『───ま、まさか……一刀君に言った時? って、あの時は人払いもして、関係者のみで居たのに、どうやって!?』

 

『我ラトテ……情報グライ……得ル……』

 

 

南方棲戦姫はドヤ顔になり、三本橋へ話の続きを促すが、当の三本橋は首を横に振り、部屋の移動が先と提案する。

 

南方棲戦姫と戦艦レ級が同時に顔を合わせ、疑問の眼差しを向けるので、三本橋は恐々しながら簡単な説明し、何とか理解して貰い部屋を移った。

 

この部屋内は、三本橋に糾弾された提督達の躯がある場所。

 

当然、死臭は漂うし、更に経過すれば腐臭だってするし、その臭いは徐々に強くなる。 

 

また、幾ら研究肌の三本橋と言えど、猟奇的な人の死体を見ながら語りたくない。 忘れている提督諸兄達も居るかもしれないので、念のために言えば、三本橋はうら若き女性。

 

流石に軍人と言えど、勘弁して貰いたいと願うのは無理も無かった。

 

 

 

★☆★

 

? 南方海域 拠点 三本橋の研究室 にて ?

 

 

そんな訳で、了承されて別室へ移った三本橋達だが、移った先は拠点内で使用している、三本橋の研究室。

 

そこは、会議室より狭いものの、畳八畳ほどの大きさがある場所。 研究者に有りがちな乱雑した部屋ではなく、キチンと整理整頓が出来た部屋だった。

 

というか、日常品は最低限の物しかなく、ベッド、業務で使用する机と椅子、来客用のテーブル、ソファー。 あと、残る場所の殆んどが、大量の本が入った本棚で占領している。

 

こんな部屋なので、ただ単に無駄な物が置けない。 それだけの理由である。 

 

 

『………フム……ココガ……人間ノ………部屋………』

 

『 ( ゜∀) ジイイイイイイ── 』 

 

『そ、そんな大したモノ、置いてないから………』

 

 

南方棲戦姫達が、三本橋の部屋内を珍しげに見渡す。 

 

辺り一面が本棚だらけだから、それは珍しいに違いない。

 

そもそも、ここにある本棚には、表紙から確認すれば、軍に関する資料となる書籍が大半を占めているのだ。

 

これを見た軍の関係者ならば、さすが中将という階級の上に立つ人物であると、つくづく感嘆するに違いない。 

 

現に、南方棲戦姫達は本棚を見て……絶賛していた。

 

 

『記憶ニ……アル……文字ガ……アル。 貴様ハ……勉強熱心……ダナ……』

 

『…………イッパイ! イッパイ!』

 

『あ、あははは…………』

 

『『 …………? 』』

 

 

だが、南方棲戦姫達は知らない。 

 

この書籍の半分以上は、表から決して見えない様に偽装された、BL物である事を。 

 

この場所のお陰で、自分の部屋に置けない物とか、秘蔵の物を此処に隠し、あらゆる場所へと伸びる捜索の魔の手(三本橋の母親)から死守できたのは、言うまでもないだろう。

 

 

『そ、そんな事より、今から天の御遣いの話をするからさぁ! 空いてる席へ座って、座って!!』

 

『…………』コクリ

 

『 (*゜∀ ノノ゙ ☆パチパチパチパチ 』

 

 

下手な追及があると不味いと焦る三本橋は、天の御遣いの話をするために、南方棲戦姫達に席を勧める。

 

南方棲戦姫は頷き優雅に座り、戦艦レ級は尻尾を丸ませて座ると、三本橋へ盛んに拍手した。

 

 

『レ級……ソレハ……何?』

 

『話ヲ……聞ク……コレヤルト……《オ兄チャン》……喜ブ……』

 

『オ兄……チャン……ダト?』

 

『はいはい! それじゃあ、聞いてねぇ───』

 

 

戦艦レ級の思わぬ言葉に、首を傾げる南方棲戦姫。

 

だが、そんな会話を全然、これっぽっちも聞く余裕がなかった三本橋は、早速ながら御遣いに関する話を語るのであった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 三国 の件 】

 

? 南方海域 拠点 三本橋の研究室 にて ?

 

 

『今から千八百年程の昔、三国という時代があって──』

 

 

三本橋が語る、三国の世界。 

 

熱き英傑が勇躍飛翔した時代。

 

覇道を進み、笑顔を願い、安寧を求める君主達。

互いに極めた武を持ち、雌雄を決する為に挑む武将達。

ウロボロスの如く、互いに喰い合う軍師達の神算鬼謀。

 

そして、行き交う想い、熱く儚い一夜の夢、様々な恋物語。

 

桃園結義、虎牢関、長坂、官渡、定軍山、赤壁、五丈原の解説を含め、ダイジェストに纏めながら、それでも一時間ぐらいで三本橋は話を終える。

 

 

『……って、こんなトコかな? ああーあ、喋り疲れちゃた。 少し休憩、休憩っと!』

 

『…………オイ』

 

『───ん? なんだい?』

 

『………御遣イノ……話ガ……ナイ……ワ』

 

『 <(〃 ̄∀ _ ) zzzZZZ 』

 

 

色々と喋りまくったので、三本橋はクタクタになりながらも、笑顔でやり遂げ事に誇りに思っているようだが、とうの南方棲戦姫は不満顔だ。

 

戦艦レ級など、話が難しかったのか……椅子に座りながら居眠りの最中。 戦艦だけど船を漕ぐとは、これいかに。

 

『あっ、ゴメンゴメン! 今のは三国志演義っていう歴史小説なんだ。 実際の人物を男に変えて、御遣い抜きだとこうなったんじゃないかな……っていう歴史小説だよ』

 

『ソ、ソウナノ……カ……?』

 

『御遣いの話をしても、古代の概要も分からないと、理解するのは大変かなーと思って、分かりやすい物語から説明したんだけど……難しかった?』 

 

『ソ、ソレハ……イイ。 ダガ……孔明受ケ……周瑜攻メ……トカ……夜ノ……営ミ……ヤラ……ハ……ナンダ? 男……同士……』

 

『───わ、忘れてぇ!! 今のは絶対に忘れてぇ!! つい最近読んだ、江◯先生の《江◯三國志》の内容だったっ!! ボクの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!』

 

『…………………』

 

 

三本橋は、この上ない慌てようで、さっきの話を忘れるように願うのだが、その南方棲戦姫の顔は赤く、視線は本棚にある書籍に釘付けだった。 

 

その書籍とは、かの───◯森三國志の全五巻。 

 

 

『後デ……読マセテ……』

 

『…………はい』

 

 

後日、三本橋が知る事はないのだが、深海棲艦の鬼や姫級の間で、BLの話が大流行したという。

 

 

 

◆◇◆

 

【 恋姫 の件 】

 

? 南方海域 拠点 三本橋の研究室 にて ?

 

 

『えーと、今度はちゃんと話ますので………』

 

『ジイィィィィィ─────』

 

『視線が痛い! 視線が痛いっ! 本当に本当だってばぁ!!』

 

 

すっかり南方棲戦姫にイタい子扱いされてしまった三本橋、当初は恐怖の対象だったのに、何故か和気あいあいとなっている南方棲戦姫と戦艦レ級。

 

全てこれは、孔明の罠………ではなく、三國志のお陰である。

 

 

『昔、三国の時代、かの大陸へ天の御遣いが流星に乗り、降りたったという話だよ。 そして、当時の英雄達と争い、または援助し、大陸統一に貢献したんだって』

 

『………タダノ……伝説……カ……』

 

『だけど、そこが不思議なんだよ〜』 

 

『……………?』

 

 

三本橋が言う不思議に興味を引かれ、更に話を進めるようにと合図する南方棲戦姫。 

 

その合図を見た三本橋は、そのまま促されるままに、次の話に移る。

 

 

『《大陸統一を果たした国は、天の御遣いを擁していた》と後世には伝えられているけど、当時の国は群雄割拠の末に、三つの国、《蜀》《呉》《魏》と別れていたと言うんだ』

 

 

これが証拠だよと、本棚から三國志の本を取り出す。 もちろん、正本を翻訳した書籍である。

 

 

『だけど、三国の歴史書には、自国こそ大陸を統一したと喧伝しているんだよ。 残り二国は戦いで下したけど、自治を認め交流を深め、共に繁栄したと同じ事が乗ってるけど』

 

『別ニ……人間ノ縄張リ……争イ……ナド……興味ナイ……』

 

『今までのは前振り、本題はここからさ』

 

『三国は大陸統一を果たしたと書いてある通り、三国は天の御遣いを擁していたんだ。 同姓同名、性別年齢も同じ。 見たことない輝く服装を着用し、天より降り立ったと』

 

『………………』

 

『だけど、三国に降り立った御遣いは、国により数奇な運命を遂げたみたい。 まるで、物語の主人公みたいに……』

 

 

そう言うと、三本橋は三国の御遣いの話を始める。 

 

かなり、その手の書籍を読み込んだのか、かなり詳しい内容を南方棲戦姫へ教える事ができた。

 

 

『蜀では、御遣いを《仁徳の導き手》と呼ばれ、王と臣下達と苦難を共にしつつも建国まで導き、更に先見の明で二国を取り込み、大陸統一を成し遂げさせた、と言われている』

 

『呉では《王配の軍師》と呼ばれ、民政に力を入れつつも軍師として活躍、統一途中で倒れた先代の王の意思を受け継ぎ、次代の王と共に大陸を統一した、だったかな?』

 

『魏では《救国の天人》と呼ばれ、数々の国難を解決し、大陸統一を見届けた後、天に帰ったと。 《種馬》って渾名もあるけど、理由はよく分からないみたい』

 

『しかも、役割こそ違うけど、同姓同名の天の御遣いを……だよ? 何やら歴史のロマンを感じられるけど、証拠になる物が少なすぎて、実証が出来ないのが現実さ』

 

『後世の歴史家達は、結局どの国が大陸統一したか分からないから、本拠地の国だけを認め、三つの国の時代、つまり三国時代として、今に伝わっているのさ』

 

 

今度の説明はまともな物らしく、三本橋は棚より三国の資料が書いた書籍を取り出し、そのページを見せながら、詳細な説明をしていく。

 

 

『三国の将達の遺品は、結構残っているんだよ。 例えば、趙子龍が使ったメンマ壷、周公瑾が書いた呉王の酒乱を詫びる木簡、夏侯元譲が魏王を模して作成した人形、とか』

 

『御遣イ……ノ物ハ……ナイ……ノカ……?』

 

『うーん、御遣いの物は無いよ。 記録によると、御遣いの遺品は、三国の将達が自分の墓へ入れてしまったみたい。 余程、好かれていたんだろうね、御遣い様って』

 

『………………』

 

 

黙ってしまった南方棲戦姫の為に、何かないかと本棚を探すと、ある本を見つけて机に置く。

 

 

『遺品は無いけど、逸話があってね。 世界で行う四月一日のエイプリルフールは、かの大陸で、魏の曹孟徳が広めたと言う、起源説があるみたいなんだ』 

 

『かの天人は高潔な人物で、嘘をつくと天人がよく怒ったらしい。 そんな天人と魏王の曹孟徳は結ばれたんだけど、彼は孟徳を置き、天の国へ戻ってしまったんだって』

 

『だから、寂しがっていた孟徳は、帰ってしまった天人を再び呼び戻す為、嫌っていた嘘をわざとつかせ、天人が怒って再び魏へ降りるようにと広めたのが、四月一日だったとか』

 

『えーと、確か此処に書いて……あ、あった! ほら、ここに! 明命書房刊発行の《お猫さま馬鹿一代記》に書いてあったって……な、何で不機嫌なんだよ?』

 

『ソンナ物デハ……安心……デキナイ。 敵対スル……勢力ガ……アレバ……水面ヘト……沈メ……ナケレバ……』

 

『そうか、もしもの場合の想定敵国を考えていたのか。 ボクの研究が最新鋭だったから、海軍は想定外……って、言ってて哀しくなってきた………』

 

 

こんなそんなで説明が終わり、三本橋が話を終わらせようとした時、南方棲戦姫から問われた。

 

 

『ヒトツ……聞キ忘レテイタ。 何故……アノ人間ノ男ヲ……天ノ御遣イ……ト?』

 

『ああ、言い忘れていた。 天の御遣いの名は、あの男、一刀君と同姓同名、《北郷一刀》って伝えられているよ』

 

『………………』 

 

『かの大陸では二字姓は珍しいし、北郷なんて無いからね。 それに、一刀君なら同姓同名だから、英雄行為を行えば、かの大陸で御遣いの再来と言われるのは、間違いないよ』

 

『…………』

 

 

三本橋より話を聞いて、南方棲戦姫は黙り込む。 

 

そんな南方棲戦姫を不思議そうに見ながら、寝ている戦艦レ級に、おそろおそろ毛布を被せる三本橋であった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 秘話 の件 】

 

? 南方海域 拠点 三本橋の研究室 にて ?

 

戦艦レ級が目覚め、南方棲戦姫と三人で話す機会が巡ってきたので、三本橋は勇気を出して、とある疑問を尋ねてみた。

 

 

『一つ、聞きたいだけど……』

 

『………ナンダ……?』

 

『レ級は何を作ろうと………しているんだい?』

 

 

三本橋が南方棲戦姫達と遭った時、提督達の屍で作業していた行為。 アレが……頭が離れられない。

 

だから、聞いてみたのだが…………

 

 

『………知ラナイ……』

 

『………はいっ?』

 

『合格不合格モ……適当。 合格ト……言ワナイ限リ……レ級ハ……止メナイノ。 面倒ダカラ……ソレナリニ……適当……』

 

 

まさか、そんな答えが返されるとは………と、頭を抱える三本橋。 だけど、彼女の好奇心は、そんな事で終わらない。

 

南方棲戦姫が駄目なら、直接本人に聞いてみようと………実際に尋ねてみた。

 

 

『オ兄チャン……ッテ……言ウ……人間……教エテクレタ……』

 

『お兄ちゃんって、人間?』

 

『ウン……浜辺デ……話ヲ……シテイタ』

 

 

南方棲戦姫が、その話を何処かで聞いた事があった気がして、一緒懸命に思い出そうとしたが、思い出せない。 

 

そんな南方棲戦姫の思考を無視し、三本橋はレ級の話にのめり込んでいく。

 

『違ウ……動物ヲ……沢山……合ワセル……強クナル……』

 

『違う動物………沢山合わせる? あれ……どこか、そんな話って、聞いたような………』

 

『オンガクタイ……アト……ロバ……イヌ………トカ……』

 

『音楽隊? 後、ロバに犬………ああぁ、ブレーメンか!』

 

『ダカラ……レ級……デキタ……!! 強クナル……タメ……空母……戦艦……駆逐……色々……取リ込ンダ!!』

 

 

『『 ────!? 』』

 

 

唐突にレ級が言った言葉は、レ級の誕生秘話。 

 

要は、戦艦レ級が誕生する前に、誰かが強くなる方法を教え、その方法を実践したら……脅威のが誕生。 

 

三本橋も驚いたが、南方棲戦姫も初めて聞いたようで、表情が固まったままだった。

 

そんなレ級は、そんな二人の表情に気付かず、笑いながら夢を語る。 

 

出来るかどうかも分からない夢。 

 

もし、出来たら………悪夢に為りかねない、途方もない夢。

 

 

『今度ハ……レ級ガ……作リ……出ス。 レ級ノ……仲間……!』

 

『『 ……………… 』』

 

 

こう言って、また材料を調達しようとするレ級を見て、三本橋はレ級に話をした人間を恨み、つい愚痴を溢した。

 

 

『だいたい誰だよ! グリム童話を語って戦艦レ級を生み出した奴って! 大本営の全員が卒倒する話だぞ!? ったく、会えたら一言……じゃ少ないか、小一時間説教──』

 

『─── Σ(゜∀。ノ)ノ  アヒャ !』

 

 

そんな何気ない呟きに、戦艦レ級は聞きつけて戻る。

 

そして、笑顔から悩むようなしかめっ面に変わり、一緒懸命に思い出そうとしている。

 

自分に、強くなる方法と仲間を増やす方法を授けた、お兄ちゃんなる人間の名を───

 

 

『エット……エット………オ兄チャン……ノ……名前……名前……』

 

『別に、無理して思い出さなくても………いや、思い出ちゃ駄目だ! 分かっただけでも、居ないそいつに怒鳴りたくなちゃうよ! ああ、鬱憤が溜まるぅぅぅぅぅ!!』

 

『名前…………名前……………』

 

『フン……面白イ……ワネ。 貴女ガ……苦シム顔……見セテ貰ウワヨ……』

 

『───性格悪ぅ!? だから───』

 

『アッ、思イ出シタッ!!』

 

 

その言葉に、南方棲戦姫と三本橋が慌てて近寄り、レ級に催促をした。 ほぼ、二人同時に。

 

 

『───誰だいっ!?』

『誰ダ………ソノ人間………ノ……名ハ……?』

 

 

二人の注目の中で、レ級の口から出た名前は───

 

 

『エート…………ホンゴウ……カズト!』

 

 

『『 …………… 』』

 

 

この時、三本橋は盛大に床へ倒れ、南方棲戦姫は一刀を殺害しようと決心したという。

 

 

 

 

■□■

 

ここの話は、本編とは関係ありません。

 

【 おまけ の件 】

 

? 南方海域 拠点 会議室 にて ?

 

 

【 猟奇 の件 】からのパロディ版です。

 

 

見捨てられたと感じた三本橋は、太太(ふてぶて)しい態度となり、南方棲戦姫を少しだけ睨み付けると、静かに目を閉じる。

 

だが、南方棲戦姫は手を出さない。 

 

それどころか、戦艦レ級でさえも面白がるかのように、二人を交互に見てニヤニヤと笑っている。

 

 

『私ハ……人間ノ女ニ……懸想スル……趣味ナド……ナイケド?』

 

『────ほへ?』

 

『………懸想? 懸想ッテ……ナンダ? ソレヨリモ……キス……キス……シナイノ!?』

 

 

南方棲戦姫の的外れな言葉に、三本橋は思わず変な声が、戦艦レ級からも突拍子もない言葉と疑問が、同時に投げ掛けられた。 

 

 

『人間ノ女ガ……二人デ居ル時……目ヲ閉ジルハ……相手カラノ……接吻ヲ望ム……ト。 違ウ……ノ?』

 

『…………そんな知識、どこから手に入れたか……小1時間、問い詰めたい……』

 

『エェェ…………ヤンナイノ?』

 

『────プチン!』

 

 

───しばらく、お待ち下さい───

 

 

まあ、そんなやりとりがあったが、三本橋の幕内(まくうち)での説得が効いたか、普段通りのやり取りで進んでいく、この物語であった。

 

 

 

 

 

説明
一刀君の回想 その4 です。 
一部、猟奇的な描写がありますので、ご注意を。
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コメント
未奈兎提督 コメントありがとうございます。 元々の筋書きでブレーメンとレ級、そして御遣いの話は作ってありました。 が、江◯三国志は想定外でした。読んだ事ありませんが、昔見た紹介ページを思い出して。(いた)
なwにwがwあwっwたwwてか冗談抜きにブレーメンの音楽隊でキメラとか同人作のBLACKSOULS思い出す(未奈兎)
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艦隊これくしょん 真・恋姫†無双 

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