_MISS_!
少女、売られる。
説明
K.2「迷い」(AIが要約)
あの壮絶な戦いから数日、少女Qの心は深い霧に覆われていた。
「英雄様だ」「あの乙女の棺があれば百人力だな」
母艦のクルーたちが向ける賞賛と期待の声が、ガラスの破片となってQの心を深く傷つける。英雄?この私が?あの街を瓦礫に変えた私が?守ったはずの民の笑顔は思い出せず、ただ自分が破壊した残骸の光景だけが、悪夢のように瞼の裏に焼き付いて離れない。
「私、みんなを救ったんだよね…?」
その問いに答える者はなく、自分を肯定してくれるものがこの世界には何もないように思えた。
その夜、Qは決意を固めた。
誰にも告げず格納庫へ向かうと、純白の巨体『乙女の棺』だけが静かに彼女を待っていた。微かな起動音と共に、Qは操縦桿を握る。眼下に広がる闇夜の空へ、乙女の棺は音もなく滑り出した。母艦に響き渡る警報を背に、彼女はもう振り返らなかった。
当てもなく飛び続け、夜が明けた頃、原生林に抱かれた宝石のような湖が眼下に現れた。まるでこの世の汚れを知らないエメラルドグリーンの水面。Qは吸い寄せられるように湖畔に降り立ち、祈るようにそっと身を浸した。ひんやりとした水が、燃えるように熱い罪悪感をわずかに和らげてくれる気がした。
「……きれい」
束の間、彼女はただの少女に戻っていた。だが、その儚い平穏は、獣の咆哮によって無残に引き裂かれる。
「見つけたぞ!『魔具人形』の乗り手だ!」
茂みから躍り出た魔族の部隊に、Qは抵抗する間もなく捕らえられた。乙女の棺も強力な電磁パルスによって沈黙させられ、鹵獲されていく。薄れゆく意識の中、Qは深い絶望に沈んでいった。
次にQが目を覚ましたのは、湿った石造りの牢獄だった。冷たい枷で壁に拘束され、目の前には禍々しいオーラを放つ魔族のリーダーが歪んだ笑みを浮かべている。
「さあ、貴様の知る情報を根こそぎ引きずり出してやろう。まずは、その美しい顔から皮を剥ぐのがよさそうだな」
鉄の焼ける匂いと、剥き出しの悪意。恐怖で凍り付いたQの心が、完全に闇に飲み込まれようとした、その時だった。
ドゴォォォン!!
凄まじい破壊音と共に、牢の壁が内側から突き破られた。粉塵の向こうに現れたのは、沈黙したはずの『乙女の棺』。その赤いモノアイは、怒りの炎で燃え盛っているように見えた。
「な、なぜ動く!?」
魔族たちの驚愕を意にも介さず、乙女の棺は明確な「意志」を持ってアームを振るい、敵を薙ぎ倒す。それはプログラムによる動きではない、魂の咆哮だった。
乙女の棺は枷をいとも簡単に引きちぎると、その巨大な掌で、壊れ物を扱うように優しくQを包み込む。コックピットに収容されたQの脳内に、直接、温かく力強い意志が流れ込んできた。
『…ダイジョウブ…?』
『キミヲ…マモル…』
どんな言葉よりも雄弁に、彼女の心に響いた。自分を無条件に肯定し、守ろうとしてくれる存在。孤独な戦場で、Qは初めて絶対的な味方を見つけたのだ。
「ありがとう……」
涙が、とめどなく溢れた。
アジトを脱出した直後、駆け付けたゼン・ニン兄弟に救助され、母艦に連れ戻されたQを待っていたのは、ゼン・ニン兄弟の雷だった。
「この大馬鹿者がァッ!」
ゴツン、と痛みのない拳骨が落ちる。「どれだけ心配したと思っとる!勝手な真似をしおって!」
だが、その怒声の奥にある声の震えと安堵の色に、Qは気づいていた。まるで迷子の娘を叱る父親のような、不器用で温かい感情だった。
叱責が終わり、俯いていたQはぽつりと呟く。
「……ごめんなさい」
そして、ゆっくりと顔を上げた。その口元には、瓦礫の街で失って以来、誰も見たことのなかった微笑みが、ほんの少しだけ浮かんでいた。
Qの孤独な戦いは、終わった。これからは、一人じゃない。無骨な巨人と、不器用な兄弟と共に、彼女は再び前を向く。

次回
http://www.tinami.com/view/1170645
前回
http://www.tinami.com/view/1170397
関連
http://www.tinami.com/view/1168795
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
45 44 3
タグ
微熱の道化師(異世界帰還編)

だぶまんさんの作品一覧

PC版|待受画像変換
MY メニュー
コレクションに追加|支援済み


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com